怪文庫

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助けてくれた誰か

私がまだ小学生だった頃体験した不思議な話です。

 

地元はかなりの田舎で、人口より猪や鹿の方が多いようなのどかな場所です。村には小中一貫の学校があり、地元の子はみんなそこに通っていました。

 

私の家から小学校へは歩いて30分ぐらいかかり、途中国道にかかった陸橋を渡って学校へ通っていました。

 

村に一本通っている国道は普段あまり車は通っていませんでしたが、最寄りの道が工事を始めており、その道が迂回路として使われていたため、普段見ないようなトラックや車が多く通るようになっていました。

 

当時小学生だった私は大きなトラックや派手な色の車に惹かれて、早めに家を出て陸橋の上から車をよく見ていました。

 

そんなことを続けていると通勤の先生に見つかってしまったのか、ある日私は職員室に呼び出されました。「毎日あの陸橋で車を見ているの?」と聞かれ「早く家出れた時だけ。大きい車を見るのが好きだ」と答えました。

 

先生はあまりいい顔をしていなくて「危ないからもうあそこで車を見てはいけないよ」と言われました。理由を聞くとあそこで昔「車に轢かれた女の子がいる」と言われ「あの時もあの道が迂回路に使われて大きい車がいっぱい走っていたのよ、だから危ないからいけません」と言われました。

 

私は教室に戻り悶々としていました。

 

クラスの女子は、アイドルの話や絵を描いたりしていてそういう事には一切興味がなかった私は退屈でした。やっとできた楽しみを、あったかどうかもわからない話でうやむやにされて私は「関係ない」と思い、先生と遭遇しそうな朝ではなく夕方に車の往来を見る楽しみを続行するようになりました。

 

何ヶ月か経ったある日。時々登校すると不思議なことが起こるようになりました。今学校へ着いたばかりなのに友達に「あれ?さっき教室にいたよね」とか「話しかけたのにどっか行っちゃうなんてひどい」と言われるようになりました。

 

私の体型はかなり小柄で、似たような背丈の子は村にはいません。

 

加えて家から小学校まで時間がかかるので、基本的に遅刻ギリギリに登校していました。変なこともあるもんだと思いながら流していましたが、だんだん友達だけでなく、先生にまで言われるようになり、やっと私はなんだか「おかしい」事が起こっていることに気づきました。

 

家に帰って両親に伝えても信じてもらえず、度々私じゃない「誰か」の存在が日常に現れるようになってきました。

 

春になり私は中学生になり、クラスも新しくなりました。新任の先生は美人で明るく、私もすぐ大好きになりました。

 

先生はよくクラスの人数や体育の組み分けを間違えるのでみんなに笑われていましたが、その度に私は少しだけゾッとしていました。また私じゃない「誰か」がいるのかと思うととても不安になりました。

 

新学期ということで先生との面談があり、その時に「何か困っていることはありますか?」と聞かれました。どうせ「誰か」のことを言っても信じてもらえない。と考えていた私は「特にありません」と答えました。

 

けど、すかさず先生は「本当に?」と聞いてきました。その目は今でも忘れません。先生は本当に真剣にまっすぐに私を見つめていました。

 

思わず私が戸惑った表情をしたためか、先生は「なんでも話してみて」と優しく言ってくれて、私は長年感じていた「誰か」のことを先生に打ち明けました。

 

先生は最後まで真剣に聞いてくれて「話してくれて、ありがとう」と言ってくれました。そして「あのね、先生のことも聞いてくれる?実はね、先生そういう人のことが見えるんだよ」と言いました。

 

私は衝撃的でやっぱり幽霊とかそういう人はいるんだと感じました。

 

先生は続けて「ときどき〇〇ちゃんに似た子がいると思っていたの。でもその子は違う子だと思って…下校の時間つけていたら陸橋にたどり着いたのよ、きっとそこにずっといた子なのね。」と言いました。

 

先生曰く、数年前あの陸橋では本当に事故があり当時小学6年生だった女の子が亡くなっていたそうです。その子は中学に上がるのを本当に楽しみにしており、それが心残りなのかもと先生はいいました。

 

「でも〇〇ちゃんがこうして中学生になったから、きっとその子も満足なんじゃないかな。きっと一緒に通ってたのよね」そう言われると妙に納得した気持ちになりました。

 

幽霊なんて怖くて信じたくなかったし、ときどき友達に「声かけたのにひどい」と言われるのは正直嫌でしたが「誰か」のことを聞くと妙に腑に落ちてなんだかとても安心した気持ちになりました。

 

その日の下校中、いつもより暖かい気持ちになりながら歩いていると、陸橋に差し掛かる途中に黒い車が止まっていました。

 

「こんにちはちょっと聞きたいんだけど」窓があいて男の人が声をかけてきました。

 

「この辺にコンビニってある?」

 

と言われ、あと15分ぐらい道を走ったらお店があることを伝えました。

 

「ごめん、ちょっと聞こえない」

 

と言われ、ちょうど車がたくさん通っていたので本当に聞こえないんだと思い、なんの警戒もなく近づいてしまいました。

 

その瞬間、突然腕を掴まれて引っ張られました。

 

窓へ引き摺り込もうとするその手はとても力強く、踏ん張ってもずるずると体が持っていかれました。怖くて声が出ないまま泣きそうになりました。

 

もうだめだ、と思った時、突然大きな声で「やめろー!!!」と聞こえてきました。

 

すると男の人は驚いたのか手を離し、その隙に走って逃げました。陸橋に差し掛かるとタイミング良く車が通っておらず、私は階段を上がらず、反対側へ走りました。

 

次の瞬間、ドーッと大きな音を立ててトラックが通り過ぎました。さっきまで全く車が通っていなかったのに、突然車が現れたのです。

 

けど、そんなことも考える暇もなく。私は走って家まで帰りました。腕に残った爪の跡を見せながら両親に報告、青い顔をして警察へ通報してくれました。(後日談ですが不審者情報が出ていたらしく、その人物では…と言われました)警察が捜査してくれるとのことで事件は落ち着きました。

 

今思えばあの助けてくれた大きな声は私の口から発せられたものでした。けど、紛れもなくあれは私ではない違う人の声でした。陸橋の下に何も車が通ってなかったといい、おそらく長年一緒にいたであろう「誰か」が助けてくれたんじゃないかと私は思っています。

 

今でも地元へ帰った際はあの陸橋を見に行っています。あの時はありがとうと思いを添えて。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter