怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

怪文庫

1人メリーさん

かなり前の話なので曖昧な所もあります。覚書も兼ねて書かせてもらいます。

 

ある意味では、よくある話です。

 

「今から1人メリーさんをしてくる。」

 

私に友人が連絡してきたのは夜も深けた秋口の頃でした。

 

私とその友人は歳が7つも離れていますが、妙に馬が合う間柄でした。

 

住んでいる場所は違えども、向こうから急に電話をしてきたと思ったら不思議な話や心霊スポットなんかに行ってきたなんて奇妙な話をしてくるそんな友人です。

 

ちなみに、私は怖い話は嫌いなので友人から電話が来ると真っ先に怖い話は止めるよう言いますが、それを受け入れてくれたことは1度もありませんでした。

 

さて、1人メリーさんとは私の住んでいた地域で学生達に囁かれていた、いわゆる「やばい事が起きる」と言うものでした。

 

自分の携帯を留守電にして、家の最寄り駅の公衆電話から電話をかけます。

 

「私、メリーさん。今▲▲にいるの。」と言う。それからどんどんと家に近付いて行き、見つけた公衆電話を手当り次第自分の携帯に電話をする、というものです。

 

「家に着くまでに何かが起きる」とも「留守電にメッセージを入れている途中に電話が繋がる」とも言われていて本当のことは誰にも分かりません。

 

ですが、私が中学生の頃には既にそれは噂になっており、卒業したとある先輩がそれで姿を消したとか、気が狂ってしまったとか囁かれていました。

 

そもそも何故友人がそんなことを言い出したのかといえば、以前その友人とオンライン飲み会をしていた時に向こうから「何かそっちに怖い話とか無いの?」と言われて話したのが原因でした。

 

お酒が入っていたせいか、私は自分では嫌な怖い話を笑いながら話していたのを覚えてます。

 

そんな学生時代に流行っていたような話を、友人は面白そうだからやってみる、途中で邪魔はするなよ、と言ってきました。

 

そんな話をわざわざやらなくても良いじゃないかと私は止めましたが、友人は笑って「オカルトハンターは真実を知るために居るからな。」といつもの軽口を叩いて電話を切ってしまいました。

 

特に何もなかった、と電話をしてきたのはそれから数時間ほど経った頃でした。時間は深夜を過ぎており、私ももう寝ようと布団に入ったところです。

 

本人は至って元気なようで、事の経緯を説明しました。

 

 

友人は比較的都会に住んでおり、最寄り駅からはそう遠くない所に住んでいたため、そこからもう一駅離れた所からスタートしたそうです。

 

駅、コンビニ、公園、児童館と手当り次第電話をかけまくったそうだ。

 

電話をする度にポケットの中で震える携帯にくすぐったさを感じつつ電話をしてみたが、震えた回数が違うとか、自分以外の声が入ってたとか、そんなことはなかったと言われました。

 

ケロリとした声で「言われた事は1つも起きなかったよ。やっぱり噂は噂だな。」と肝試しをした後の高揚感のような、そんな声で面白そうに友人は笑っていた。

 

私はもう寝るところでもあったのを邪魔されたせいで不機嫌になり、そうだな、と適当に返して電話を終えました。

 

その後、その友人との連絡はぱたりと止みました。

 

亡くなったとかどこへ行ったとか、そう言う話も聞きません。友人も忙しい身なので自然と連絡を忘れてしまったのではないかと勝手に納得しています。

 

ただ、1つだけ気になることがあります。

 

それは連絡されたあの夜、電話越しで話す友人の声の近くで何人かの子どもの泣き声のような笑い声のようなものが聞こえてきたのを今でもハッキリと覚えています。

 

友人は確か当時結婚などはしておらず、まして子どもなどはいなかったと記憶しています。

 

あんな夜更けに何人もの子どもを連れて歩いていたことを考えると、かなり非常識だと思いました。

 

あの声は友人には聞こえていたんでしょうか。そもそも、その友人は果たして私の知っている友人だったのでしょうか。

 

今でも謎が残ったままですが、その事を聞きたくても友人の携帯には繋がらず、今も留守電のままです。

 

そんな話を聞いて、まさかそんなことがある訳無いだろうと思う人は多数いるでしょう。

 

都市伝説のメリーさんのように家に近付いて行き、最後は電話の相手の後ろにいることで話が終わるのに対して、1人メリーさんは何だか話がめちゃくちゃだと思われた人もいるでしょう。

 

書きながら当時を振り返っていると、ふと私はある事を友人に伝え忘れたことを思い出しました。

 

1人メリーさんをやった日は決してしてはいけないと尾ひれのような噂があったことを。それは「鏡に向かうこと」と言われてた気がします。

 

どうしてかの理由はハッキリとは覚えてませんが、私たちの当たり前にある物を避けるという制限はとても難しいからだと私は思います。

 

そしてここからは私の憶測ですが、友人は帰宅後に鏡を見てしまったのではないでしょうか。そして、鏡に映ることで友人はメリーさんになってしまったのではないかと思っています。

 

ずっと「私、メリーさん」と続けて、更にその留守電も聞いてしまうことで、自分をメリーさんだと信じてしまったんじゃないかと思います。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter