皆さんはここ最近、リモートワークなどで誰かとオンラインテレビ電話を繋いだことはあるだろうか。
これはSNSでひそかに話題となった話だが、リモートワークに使うアプリにある特定の番号……つまり会議番号なのだが、その番号を入力して入った電話先で、幽霊と会話できる、というものだった。
会議番号はランダムに13桁存在するが、都市伝説ではその番号を4242 4444 4242 とするとそのオンライン電話に繋がる。
しかし制約として深夜2時から2時42分までしか繋がらない、暗い場所でないとかからないため、朝にかけても意味がないらしい。
そんなSNSの小さな話題を見つけた女子高生がいた。
彼女は祖母をなくしてしまい、悲しさとせめてもう一度会いたいという気持ちから、深夜のオンライン電話を決行した。
深夜2時。誰もが寝静まり、静かな部屋で真っ暗のなか、彼女はスマホをさわる。
「えっと、4242……」
慎重に慎重に、もうすぐ祖母に会えるという期待を胸に震える指でボタンを押していく。全ての番号を入力し、2時ちょうどに繋げてみた。すると、暫く待ったのち、繋がった。
今更ながら、SNSの噂を聞き付けて誰かが立てたオンライン電話だったらどうしよう。そんな彼女の不安をよそに、相手の画面は真っ暗だった。
「あ……あの……」
彼女は震えた声で言葉を投げ掛ける。すると相手側の画面が、いきなり光ったのだ。驚いてスマホを落とした彼女は、恐る恐るスマホの画面を見つめる。
「……え?」
そこには、自分が写っていた。
自分の画面と相手の画面、二つとも今のスマホの明かりに照らされた自分が写っている。
不思議に思った彼女は、相手側の画面をじっと見つめた。
すると、暗がりになにか写っているように見えた。しかし暗すぎてよく見えない。目を凝らしてよく見た、その時……
「ひぃ!!」
相手側の画面……自分が写っている隣に、髪で顔が覆われた女がいたのだ。
いや、女ともよくわからないが、雰囲気は女性に近い。
彼女は恐怖で震えてその場に凍りついていると、女はまるで人間とは思えない、枯れ木のような指をゆっくり、ゆっくりと伸ばす。そして、彼女の首を徐々に絞めていく。
「う……くる、し……」
彼女の画面にはなにも写っていないのに、相手側の画面には自分の首を絞める不気味な女がはっきり写っている。
だんだん息が苦しくなる彼女だが、自分の首にはなにも巻き付いていない。しかしじりじりと首に込められる力を感じ、少女は身の危険を感じた。
「いや!!こないで!!」
少女はそう叫んだ。すると、スマホからノイズが流れ出す。
ザザ……ザザ……
「あそ……ぼぉ………?」
ノイズに紛れてかすかに聞こえた不気味な声に、彼女は叫び声をあげた。
「ちょっとどうしたの!?」
しかしその叫び声に気づいた彼女の家族らが部屋の明かりをつけて入ってきたのだ。
その瞬間、息すらできないほど絞め上がった首が解かれ、彼女はごほごほと激しく咳き込みながら、ボロボロと泣き出した。
いったい、あれはなんだったのか……。恐怖で考えるのをやめた彼女の首に、真っ赤な手形がくっきりと残っており、スマホの画面にはヒビが入り使えなくなっていた。
それから暫く経ち、彼女のスマホが修理から戻っていた。
彼女は最初こそ錯乱に近い混乱を見せていたが、時間と共に落ち着き、今では学校に普通に通えるようになっている。
ようやくスマホが帰ってきたことに喜びを感じる彼女は、るんるんで学校にやって来た。
「スマホ戻ってよかったじゃん!」
ことの顛末を知っている彼女の親友は、邂逅一番にそう話しかけてきた。
しかし声をかけられた彼女は少しだけ顔が曇る。親友にはあのオンライン電話の都市伝説を代わりに調べてもらっていたからだ。
そして、スマホが帰ってくるころに結果を伝える約束をしていたのだ。
「ねぇ、それでどうだった?」
自分の席について恐る恐る話しかけると、親友は気まずそうに口を開いた。
「うん、調べたよ。あのね……正直かなりヤバイよ、あれ」
親友には霊感があり、お寺の家系でもあった。その彼女が親である住職に今回の話をしたそうだ。
「お父さんがね、スマホの画面は心霊写真と一緒で、幽霊を写しやすいし、霊と繋がることもできるんだって」
親友いわく、あの会議番号は、あの世と繋がっているらしい。
そしてあの世と繋がったことを嗅ぎ付けた悪霊は、正者の魂を生け贄にしてこの世によみがえろうとする。そのため今回のように襲われたんだろう、と。
「それでさー、あの都市伝説の出所も調べたらこれまたやばかったのよ。」
彼女が見たSNSの情報は、拡散されたうちのひとつにすぎなかった。
出所はとある使い捨てアカウントらしいのだが、そのアカウントの持ち主は、その投稿をしたあとに謎の死を遂げたそうだ。
「こっくりさんとか、合わせ鏡とか、あの世と繋がるやばいものはたくさんあるね。今回はその最新版って感じだし、もうやらないほうがいいよ。」
「うん……」
たくさん怖い思いをしたため、もうやるつもりは一切なかった。
しかし、気になる点がある。あの画面越しに自分の首を絞めたものは、本当に悪霊だったのだろうか……。それよりもおぞましいなにかに感じて、彼女は身震いした。
もう考えのはやめよう……。
怖くなった彼女は、スマホで時間を確認しようと手に取る。
暗い画面から立ち上げた一瞬、彼女の後ろにそのおぞましいなにかがたっていたことに気づかず、彼女はスマホをいじり始めた。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)