これは私の祖母から聞いた話です。私の祖母が生まれた村は田舎の山奥にある集落で、その村にはとある風習がありました。
それは、15歳を超えた男女を強制的に恋愛関係にさせるというものでした。
この風習は、半強制的なものであり、その男女に自然と恋心を芽生えさせるといったものではなく、
村全体がその2人を恋人同士であるかのように扱う、といった一風変わったおかしなものだったようです。
実際にはその男女の仲がそんなによくなかったり、ほとんど会話したことがなかったとしても、
村でつがいとして扱うと決められた場合は、村人たちは決定に従い、そのように扱わなければならなかったのです。
仮にこの掟に反する行為を行ってしまった場合は、村八分とされ、その村での生活は立ち行かなくなってしまうようでした。
つがいを決める決定権を持っているのは、村の村長夫妻です。
毎年行われる村のお祭りの場にて、特定の男女の名前が挙げれら、そこで指名された男女はその年以降、村公認のカップルとされます。
なぜこんな風習ができてしまったのか、詳細はわかりませんが、当時から村では過疎が進んでいたため、
おそらくは、村の人口を減らさない為にできたものではないかと私は考えています。
ある年の祭りで、とある男女の名前が挙げられました。
一人は村一番の活発な少女で、ようやく今年15歳になったばかりでした。
彼女は気立てもよく、勤勉な子で村人たちからの評判も良かったようです。
この少女の名前を仮にK子とします。
その相手になった男性は、村長の孫であるⅮ助でした。D助は今年で35を迎える男で、この年になるまで異性とは全く関わったこともないという変わり者でした。
原因としては、D助の容姿があまりにも醜悪であり、かつそれに見合った卑屈な性格をしていたからです。
本来であれば、村の風習で15歳から20歳くらいの間には、強制的に恋人が選ばれるはずなのですが、D助の場合は村長の孫であるということもあり、
精神的にも問題を抱えていたため、特別扱いを受けていたようです。
しかし、もう生い先短い村長夫妻が、死ぬまでに何とか不憫な孫の恋人を見つけてやりたいと考え、その相手としてK子が選ばれたようでした。
ですが、K子には当時から付き合っている恋人がいました。相手は幼馴染のY太です。
選ばれてしまったK子は何としてでもD助と恋人にはなりたくなかった為、村中の人間に助けを求めました。
自分にはすでに恋人がいるため、D助とは恋愛関係になれないこと、また、お互いの年齢が20歳も離れていることなど、
を熱心に説明し、説得を試みました。
しかし、村人たちはそれが掟だから、、、との一点張りでK子の意見を全く聞こうとはしてくれませんでした。
村人たちも自分が村八分となってしまえば、生きていけなくなってしまうため、仕方なかったのかもしれません。
以降、K子は気が気ではありませんでした。
なぜなら、お祭りの1か月後には相手の男の家に行き、一晩を過ごさなくてはならないというしきたりがあったからです。
ここでいう一晩を過ごすというのは、男女として肉体関係を持つということで、
その行為が間違いなく行われたと確認するために、毎回村長がその場を見届けるというルールがありました。
祭りから一か月が経過し、K子の家に村長夫妻がやってきました。
村長夫妻はおびえるK子を無理やり連れだし、D助のもとへと連れて行きました。
D助は布団の上に座っており、ずいぶんと興奮していました。
その様子はけだものそのもので、口からはよだれをたらし、下半身は大きく隆起しており、
既に白い液体が布団の周囲にまき散らさてれていました。
それを見たK子は叫び声をあげ、力ずくで村長夫妻を振るほどき、本当の恋人であるY太のもとへかけていきました。
そして、K子は事情を説明してすぐさまこの村から逃げようと、Y太に持ち掛けました。
Y太はすぐさま了承し、二人はゆく当てもありませんでしたが、とにかくこの村から遠くの場所へ行きました。
二人が村から逃げたことは、すぐに村中に知れ渡りました。
村人たちは大慌てで二人を捜索しました。
捜索は数週間にわたって、村人総出で行われましたが、見つかることはありませんでした。
2人は、そのまま数日ほど歩き、偶然見つかった宿屋に身を寄せて、しばらくの間はそこで働きながらなんとか暮らしていたようです。
こうして逃げ延びてきたK子というのが、私の祖母です。相手のY太というのが私のおじいちゃんです。
祖母は私が恋愛の話をするたびにこの話を聞かせてくれます。
今となっては考えられないような風習ですが、当時は似たようなことをしている村は割とあったようです。
また、今は自由に恋愛ができて本当に良い時代だ、だから本当に好きになった人と幸せになるんだよと言ってくれます。
そんな素敵な祖母が生まれたあの村は、今となっては一体どうなっているのか、知る由もありません。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)