怪文庫

怪文庫では、多数の怖い話や不思議な話を掲載致しております。また怪文庫では随時「怖い話」を募集致しております。洒落にならない怖い話や呪いや呪物に関する話など、背筋が凍るような物語をほぼ毎日更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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テケテケ

「テケテケさまに願いを言えば必ず叶えてくれる」、友人は僕にそう語ってくれた。

 

大学の「観光スポット研究会(実際はただの飲みサー)」の活動(ただの飲み会)で友人のKはテケテケを信仰しているあるグループの話を教えてくれた。

 

テケテケという話を知らなかった僕にKは簡単な説明をしてくれた。

 

テケテケとは、冬の北海道、室蘭市で電車に踏切で轢かれた女子高生の怨霊が正体ではないかと言われている。その女子高生は電車で轢かれたことで上半身と下半身が真っ二つになったのだが、冬の北海道の寒さのおかげで切断面が凍り、出血多量による死亡が遅れ、上半身だけで踏切から脱出し、しばらくの間生存し続けたそうである。

 

その痛ましい事故の惨状から、女子高生が怨霊になり、彼女に出会った者たちは時速100キロ以上のスピードで上半身だけの怨霊に追いかけられる、というのがおおむねのストーリーである。

 

彼女から逃れるには、ある呪文を唱えなければならないと言われている。もしその呪文を知らなければ遂には彼女に捕まって被害者たちは殺されるとされる。

 

そしてこのお話を聞いた者のもとにもテケテケは訪れる、と言って話が締めくくられる。

 

このテケテケ、どうして怨霊になったのかと言えば、曰く失った下半身を探している、曰く自分を助けてくれなかった人を探して殺そうとしている、など動機ははっきりとはしていない。

 

Kはテケテケのストーリーを大まかに話してくれた。彼の話を聞いて僕は「なんでこんな妖怪が神様になったの?」と尋ねた。

 

Kは興味があるならそのグループのところへ連れて行ってやると言ってくれたので、話のネタになればと暇人の僕はその提案に乗った。

 

後日、Kの車で向かった先は、神戸市の六甲山のふもとにある閑静な住宅地にある一軒家だった。

 

車中で僕は彼にそんなグループに関わるようになった経緯を尋ねた。

 

Kは大学生にも関わらず既に150万円以上もの借金があったのだが、ある人にここを教えられて教団に入ってテケテケ様を信仰したところ、150万円の借金をすんなり返済できたとのことだった。

 

それ以降、Kは熱心なテケテケ様の信者になったそうだ。

 

その家はどこのでもある普通の民家で、表札には家主の名字だけで特段の宗教施設の様子はなかったが、Kは「毎週ここでグループ礼拝が行われている」と教えてくれた。

 

その家に入ると40代くらいの派手な女性が出迎えてくれた。Kは「この方がC先生だ。この教団の代表だ」と教えてくれた。

 

C先生は勘の鋭そうな派手な化粧をしていて、一見きつい印象を受けたが、話してみると柔らかな口調でなんでも聞いてくれる姉御のような人だった。

 

奥に通されると、正面には神棚があり神像なのだろうか、ボブカットの女子高生の上半身だけの像が祀られていた。

 

C先生はテケテケがどうして神様なのか説明してくれた。

 

それによると、古来日本には怨霊信仰があって、非常に強い恨みを持った霊はその強い霊力から神様として祀ることで強力な守護神ね変化してくれるとのことだった。

 

例えば平将門などはその一例だし、また四国に伝わる犬神信仰などもその例であると教えてくれた。

 

テケテケを信仰する理由付けなどは理解できたが、どうしても解せないのはどうしてC先生がテケテケ様なるものを信仰し始めたのか、その点について率直に僕は先生に尋ねた。

 

先生は微笑んで、自分は元は普通の主婦だったのだが、夫のDVに苦しんでいたと言った。

 

ある晩、C先生の夢にボブカットの下半身がない女子高生が現れてこういったそうだ、「私を祀れ。そうしたらお前の望みを叶えてやる」。

 

それ以降C先生は「どうかあの夫から逃れさせてください」と日夜拝んだところ、夫が深夜タクシーに轢かれて死んだという。

 

夫の葬儀を済ませたある夜、C先生の夢に再びそのボブカットの女子高生が現れ「お前の望み通り夫から逃れさせてやったぞ。これからはお前が信者を集めて私を神としれ祀り上げろ」と言われたそうだ。

 

そう言いながらC先生は僕に向かって「テケテケ様に会ってみたい?」と尋ねた。彼女は「テケテケ様には本名があって夢でそれを教えてくれたの。その本名を聞いた人のもとにはテケテケ様が現われて望みを聞いてくださるの」とつづけた。

 

僕はそれを聞くと後には戻れないと感じたので丁重にお断りをし、その家をKと共に辞去した。

 

帰りの車中、僕は「面白い話だったな。でも先生の夫が亡くなったのは偶然じゃないのか」と言ったところ、Kは「いや、旦那さんはテケテケ様に追いかけられて殺されたんだろう」と言った。

 

彼によるとC先生の夫は神戸の国道沿いでタクシーに轢かれたとのこと。その国道は見晴らしが良く、深夜でも交通量が多いので突然に人が飛び出すのは不自然だった。

 

そして加害者のタクシー運転手によると、夫は何かに追いかけられているかのようにして突如道路に飛び出したのことだった。

 

確かに不思議な話だったが、あまりにも出来すぎた話だったので切り上げて彼とは別れた。

 

その後、Kと共通の友人と飲んでいたところ、Kの話になった。何とはなくKが借金を返せてあいつはよかったなと話を振ると、友人は「でも親父さんが事故死して、その相続したお金で返済したんだぞ。いいもんか」と言った。

 

Kの実家は西宮市の住宅街にあるのだが、Kの父が深夜帰宅中に野生動物に襲われてかみ殺されたそうだ。

 

住宅街で野生動物に殺されるという痛ましい事故を聞いてゾッとしたのだが、もう一つゾッとしたのが、Kが言った「テケテケ様を信じれば望みを叶えてくれる」だった。

 

C先生の夫はDVから逃れたいという理由で事故死した。Kの父はKの借金を返済したいという理由で事故死した。

 

もしテケテケ様に望みを叶えてもらうには、人間の命が代償だったとしたら一連の出来事は関連性を帯びてくる。

 

そう思った僕はテケテケに関わることはやめようと思った。

 

テケテケは神様になった、でもそれは神と呼ばれる崇高なものなのか。僕にはそれはただの悪鬼羅刹にしか思えないのだが。

 

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