怪文庫

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旧笹池トンネル

古いトンネルって、いろんな曰くがありますよね。女の幽霊が現れるとか、車で通ると窓ガラスに手形がいっぱいつくとか……。

 

これも、そんな古いトンネルでの話です。

 

私は、昔からオカルトに興味があって、よく友達と一緒に心霊スポットに行っていました。

 

その日も2人の友達――仮にAとBとします――と私の計3人で、ちょっとした曰くつきのトンネルへと向かったんです。

 

そこは、『旧笹池トンネル』という、今は使われていない古ぼけたトンネルでした。

 

近くに笹池という池があるから、その名前がついたなんて言われています。

 

でも、事故が多発するからという理由で通行禁止になり、西に300m行ったところに新笹池トンネルが開通しました。

 

今では、『笹池トンネル』といえば新笹池トンネルを指し、旧笹池トンネルは誰からも忘れられたような存在になっています。

 

そんな旧笹池トンネルですが、昔から地元では心霊スポットとして有名でした。

 

多発した事故も幽霊の仕業じゃないかなんて、まことしやかにうわさされているほどです。

 

実は、この旧笹池トンネルを作る時に、落盤事故がたびたびあったそうなんです。

 

それに巻き込まれて亡くなった人が大勢いるらしくて、その人達なのか男性の霊がよく目撃されています。

 

また他にもたまに女性の霊が目撃されることもあって、落盤事故が起きた時に人柱として埋葬された人が幽霊となって出てきてるんじゃないかという話もあります。

 

そういうわけで、私達3人は好奇心丸出しで旧笹池トンネルに行きました。

 

市街地から離れた場所にあるため車で行ったのですが、夜ということもあり、妙に不気味な感じがしました。

 

車のエンジンとライトはつけたままで、トンネルの少し手前に止めました。普段使われていないだけあって、外灯の類いはなく辺りが真っ暗だったからです。

 

見た目はごく普通のトンネルで、入り口の上のところに小さく『笹池トンネル』と表示されていました。

 

「なんか、雰囲気ありすぎじゃね?」

 

「そうだね。今にも出そうだよね」

 

そんなことを言いながら、私達は懐中電灯を持ってトンネル内へと入って行きました。

 

心霊スポットって、廃墟やトンネルを問わず落書きが多くあったりしますよね。でも、ここ旧笹池トンネルには、そういうものはまったくありませんでした。

 

トンネル内には冷たい空気が流れていて、妙に寒気がしました。私達は、それをトンネルの中だからだと思って気にしませんでした。

 

そこは、不気味なほど静かで、響くのは私達の話し声と足音だけ。

 

その異様さに、恐怖心がよけいに掻き立てられました。

 

 

「トンネルの中って、普通は音が響くじゃん。もし、音が響かないとこがあったら、そこに幽霊がいるんだって」

 

Aがそう言うと、肯定するかのようにコンッと音が鳴りました。

 

私達は、ビクッと肩を震わせて顔を見あわせました。AもBも顔が青ざめていました。

 

おそらく、私も同じような顔色をしていたでしょう。

 

「い……今の、聞こえた?」Aの質問に、私もBもうなずきました。

 

3人とも同じ音を聞いているので、誰かが冗談を言っているとは思えませんでした。

 

息を潜めて辺りをうかがいますが、物音はまったく聞こえません。

 

「さっきの……何だったんだろ?」

 

Bのつぶやきに、

 

「き、気のせいだよ……気のせい」

 

私は、努めて明るく言いました。そして、先に進もうとうながしました。

 

ここに来る前の好奇心はどこへやら、トンネルの中間付近まで行ったらすぐに帰ろうということになりました。

 

怯えながらもトンネルの中間付近まで進むと、一段と空気が冷たくなったような気がしました。

 

「めっちゃ寒くね?」

 

私が同意を求めると、AとBはほぼ同時にうなずきました。

 

「……あれ? さっきより音が響いてないような……?」

 

ふいにBがつぶやきました。

 

私はAと顔を見あわせ、手を叩いてみました。

 

すると、入口付近ではよく響いていた音がほとんど響かなかったんです。

 

「うそ……だろ?」

 

私はそれしか言えませんでした。AとBは真っ青な顔で声を出すこともできません。

 

そんな時です。背後に気配を感じたのは。

 

勢いよく振り向いて懐中電灯で照らしましたが、そこには誰もいませんでした。

 

「なになになになにっ!?」

 

怯えたBが早口で声をあげました。

 

「あ、いや……後ろに誰かいるような感じがしたから」

 

私はそう言って、気のせいだと思うとつけ加えようとしました。

 

その時、トンネルの壁を思い切り叩いたような音が鳴りました。それも、私達の近くでです。

 

それを合図に、枯れ枝を踏むような音が鳴り出しました。

 

始めは微かなものだったそれは、次第に大きく聞こえてきます。私達はその場で、顔面蒼白でガタガタと震えるしかありませんでした。

 

「もう、帰ろうよ」

 

やっとのことで言葉にしたAにBと私がうなずくと、音がぴたりとやみました。

 

どうしたのかと辺りをうかがおうとすると、

 

『つれてって――』

 

私の耳もとで女性の声がしました。しかも、はっきりと。

 

私はたまらず絶叫して、その場から全速力で逃げ出しました。私の声に驚いたAとBもあとから走ってきます。

 

なんとかトンネルから逃げ帰ってきた私達は、急いで車に乗り込みました。

 

荒い息を整えていると、

 

「ねえ、さっき何があったの?」

 

とAにたずねられました。

 

私が先ほどあったことを説明すると、とにかく帰ろうということになり車を走らせました。

 

車内は、冷房もつけていないのにひんやりとしていました。ですが、そのことは誰も口にしませんでした。

 

無事にAとBを彼らの自宅まで送り届けると、急に心細くなってきました。でも、引き返して泊めてくれとも言えません。しかたなく、私は自宅へと車を走らせました。

 

帰宅して家の中に入った私は、ようやく安心できました。心霊スポットではないから、もう怖いものはないと思ったのです。

 

何か飲もうとリビングに行くと、女性の笑い声が背後から聞こえました。

 

驚いて振り向くと、そこにはおぼろげな女性が立っていました。

 

姿を見たのはそれが初めてですが、トンネル内で『つれてって』と言った女性だとなぜかわかりました。

 

その日から、私の背後には彼女の気配がずっとあります。

 

もし、旧笹池トンネルに行くことがあれば、気をつけてください。

 

幽霊が憑いてくるかもしれませんから。

 

著者/著作:倉谷みこと(Twitter