怪文庫

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富豪の壺

私の知人にAさんという老人がいる。Aさんは昔はとある大企業の社長だったそうだ。

 

しかし、私も周囲の人も誰もその話を信じていなかった。なぜなら、Aさんは大企業の元社長というにはあまりにも粗末な暮らしをしていたからだ。

 

ある時、私は古い雑誌のインタビュー欄にAさんの記事が載っているのを見つけた。そこには確かにC社代表取締役A氏となっている。ただ今はもうそのC社は既に倒産していた。

 

不思議に思った私はAさんに不躾と思いながらもこう尋ねた。

 

「記事を見ました。Aさんは本当にC社の社長だったんですね。でも、なぜC社の社長だったAさんはこの様な生活をしているのですか?」

 

Aさんは不機嫌になるどころか意外にも陽気に話してくれた。

 

「それはな全部“富豪の壺”のせいさ」

 

その“富豪の壺”というのはAさんが勝手につけた名前だそうだが、Aさんの会社がまだ小さかった頃にとある人から譲られたものだそうだ。その壺を手に入れてからみるみる内に会社は大きくなったそうだ。

 

私はその話を疑問に思った。

 

「その壺があればC社は倒産しなかったのでは無いか」と思ったのだ。

 

Aさんは私の疑問を分かっていたかの様に続けた。

 

「ある日突然、その壺は盗まれてしまったのさ」

 

その後、会社の業績は悪化の一途を辿り倒産してしまったのだ。Aさんは今もその壺を探しているという。話の最後に「もし見つけたら教えてくれ」とAさんは私に一枚の壺の写真を見せてくれた。

 

その時、私にはその話を信じることはできなかった。

 

数か月後、雑誌のインタビュー記事を見つけ私は驚いた。インタビューされるD社社長のうしろにAさんが見せてくれた写真の壺にそっくりな壺が写っていたのだ。

 

私は迷った末Aさんにその事を伝えなかった。

 

Aさんの話が事実だとするとD社社長がAさんの壺を盗んだ犯人であり、富豪の壺が本物だということになる。そこで私は「所有するだけで富豪になれる壺があればそれを譲るだろうか」と疑問思ったのだ。

 

もしかするとAさんも同じ様にその壺を……。

 

とはいえ、結局、私にはAさんの話が本当か嘘なのか知る術はないのだ。

 

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