怪文庫

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人形屋敷

「呪い」という言葉から何を思い浮かべるだろうか。

 

「牛の刻参り」に「傀儡」、「藁人形」などなど「呪い」と言う言葉から思い浮かべるものはその辺りだろう。

 

私もあの光景を見るまではそんなものしか思い浮かばなかった。

 

その出来事は私が学生だった頃にさかのぼる。当時、私は高収入が売りの配達のバイトをしていた。

 

暑い夏の日、ある荷物を一軒の家に配達する事となった。

 

「一体何が入っているんだ?」私は思わず愚痴を言いたくなった。それほどその荷物はずっしりと重く、人一人がぎりぎり運べるくらいの重さだったのだ。

 

その荷物を配達する家は見るからに金持ちそうな大きな家で、高い外門から入り口まで数百メートルも歩かなければならなかった。

 

「すまないね」

 

ずっしりと重い荷物を持ちながら汗をびっしょりとかく私を感じの良さそうなおじさんが対応してくれた。

 

年齢は50代くらいだろう。玄関まであと少しのところまで運んだ時、私は何処からか視線を感じた。

 

ふと上を見ると、二階の窓から人が覗いていることに気付いた。

 

「お子さんですか?」

 

私は世間話のつもりで尋ねると何故かさっとおじさんの顔色が変わった。

 

「あとは私が運ぶから荷物はここに置いてくれて構わないよ」 

 

「いいんですか? 重たいですよ」

 

「玄関口まではあと少しなのに……」と私は不思議に思いながらも、その荷物があまりにも重かったので、有り難い申し出と思い、そのままサインだけ貰い、その場に置いて帰ることにしたのだ。

 

それから何度がその家に荷物の配達に行く機会があり、その都度やたらと重たい荷物を運ぶ事になった。

 

毎回対応は最初に出て来たおじさんがしてくれるのだが、不思議な事におじさんの奥さんや子供などを見かけたことは無かった。

 

だから、私は「何の仕事をしている人なんだろう?」とか「家族はいるのだろうか?」など疑問に思いってはいた。

 

しかし、そのおじさんに直接聞く事など到底できなかった。

 

何時も何故か玄関口まであと半分というところまで来ると「荷物を置いて帰っていい」と言われてしまうのでずっと不思議には思っていたのだ。

 

アルバイトの期間も終わりに近づいた頃、再びあのおじさんの家に荷物を配達する事になった。

 

おじさんの家に到着してインターホンを鳴らしたのだが、一向におじさんが出でこない。

 

「今日は外出しているのだろうか?」

 

そう思い、不在票を置いて私が帰ろうとしたところ、ガサガサと庭の方で人の歩く音が聞こえたのだ。

 

「おじさんかな?」

 

軽く外門を押してみると門は開いている様だった。私は「この家は広いしインターホンが聞こえなかっただけかも」と思いそっと中を覗いた。おじさんの姿は見えなかった。

 

「お邪魔しまーす」

 

私は一応声をかけて外門から中に入った。

 

今思えば、人の家の敷地内に勝手に入るなどとんでもない事だ。

 

ただ不在票を置いて帰れば良かったのだが、荷物の配達時に何時もおじさんがいたので無意識に「今日もいるはずだ」と思い込んでいた事もあったのだろう。

 

私は何時もの様に中庭を真っ直ぐ歩き玄関口に向かった。

 

ふと、私は最初にこの家に来た日を思い出して、あの家の二階の窓を見た。

 

そこにはじっと人が一人立っているのが見えた。

 

「なんだ、やっぱり人がいたのか」

 

私は何も疑問に思わず、その人に向かって声をかけた。しかし、その人影は一向に動かない。

 

「聞こえていないのかな?」

 

そう思った私はそこから玄関口まで行ってみる事にしたのだ。

 

しかし、玄関口に行っても玄関の鍵は閉まっていたおり、声をかけても誰かが降りてくる気配もない。

 

家に近づいて見て気付いた事なのだが、人が生活している様子がないのだ。家全体から廃墟の様な気配が漂っていたのだ。

 

「じゃあ、二階にいる人は?」

 

私は奇妙に思い、近くの窓から中を覗こうとした。だが、昼間だというのにカーテンは締め切られたままとなっている。

 

いよいよ私は困惑した。

 

「おじさんに何かあったのではないか?」

 

と考えたのだ。

 

心配になった私は家の一番大きな窓がある場所に周り混んでみると締め切られたカーテンの隙間から中が見えたのだ。

 

私は「勘違いだったら、怒られるかも知れない」と思いつつも覗き込んで、息が止まりそうになった。

 

真っ暗な部屋の中、ダイニングのテーブルには等身大の人形達が、まるで食卓を囲むかの様に座らせられていたのだ。

 

近くには燭台が置かれており、それは何かの儀式のようであった。

 

真夏だというのに全身に悪寒が走り、その場を逃げ出そうとして、更にぞっとした。

 

私の後ろに真っ青な顔をしたおじさんが立っていたのだ。

 

「す、すみ……」

 

「見られた! 失敗だ!」

 

私が謝罪しようとしたが、おじさんは真っ青な顔のまま「失敗した!」と叫びながら走り去って行った。

 

私も怖くなり、その場を逃げ出しだ。

 

その後、期間を残したまま私は宅配のアルバイトを辞めた。

 

アルバイト先から何かクレームが来るかもと思っていたが、その様な事は一切無かった。

 

後日、あの家の近所の人に話を聞くと「あの家はずっと空き家だよ」と言う返事が返ってきた。

 

では、あのおじさんは何者だったのだろう。

 

おじさんはあの日「見られた! 失敗した!」と言っていた事から、あれは「呪いの儀式」を行なっていたのでは無いかと考えている。

 

きっと、その儀式は私に見られた為に失敗してしまってのだろう。

 

そして、私が運んでいたあのずっしりと思い荷物の正体は儀式に使う「人形」だったのだろう。

 

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