怪文庫

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窓の外

もう10年近く前の話になる。

 

当時私は大学生で、葬儀屋でアルバイトをしていた。

 

友人や家族からは不評だったが、時給の高さと時間に融通の利くこのバイトを、私は結構気に入っていた。

 

ただ、バイト先では不思議な出来事が頻発していた。

 

例えば消したはずの電気がいつの間にか再びついていたり、スタッフルームの扉がノックされたので開けてみるが誰もいないなど、気のせいなようなそうでないような微妙な現象がよく起きていた。

 

私はあまり幽霊などを信じる性質ではなかったため、「接触不良かな」「古い建物だから軋んでるのかな」と適当な理由をつけて気にしないようにしていた。

 

しかしある日、同じバイト仲間のAさんと仕事をしていた時、説明し難い現象に出くわした。

 

その日、私とAさんは7階の食事会場を掃除していた。

 

会場は広いため、私は床掃除、Aさんは窓拭きと分断して作業をしていた。

 

するとAさんがわあっと悲鳴を上げて雑巾を放り出した。

 

何事かと近付くとAさんは窓を指差し、「手、手が…」と震えた声で窓を指差している。

 

窓を見ると小さな子供の手形が無数に付いており、白く油で汚れていることがわかった。

 

「大丈夫ですか?」とAさんに声をかけ、私は窓をゴシゴシとAさんの投げ出した雑巾で拭いてみた。

 

しかしいつまで経っても汚れは落ちない。気づいた瞬間私の手はピタリと止まった。

 

白い手形は全て窓の外側についていたのだ。

 

前述の通りここは7階で、窓も嵌め殺しであるため、外側に手形がつくことはあり得ない。まして子供の手形であるため、窓掃除の業者が付けたとも考えにくかった。

 

薄気味悪くなり、最低限の掃き掃除と拭き掃除を終え、私とAさんはその部屋を後にした。

 

後日、再びAさんとシフトが被り「あの日の手形ってさ」と、話しかけてみた。

 

するとAさんは「手形?」と不思議そうにしている。

 

「ほら、7階の食事会場の…」というと、「ああ、あの日の!窓の外に小さい子供の手があって…」とAさんは返事をした。Aさんはさらに続ける。

 

「最初は一つだった子供の手がだんだん増えていって、ペタペタと窓を叩くものだから本当に怖かった」

 

どうやらあの日、Aさんは手形だけではなく、窓を叩く手そのものを見ていたようだった。

 

なぜ私には手形しか見えなかったのかは分からないが、そのことをAさんに伝えても無用に怖がらせてしまう気がしたため、深く突っ込むことはしなかった。

 

これが私の、初めての心霊体験だった。

 

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