怪文庫

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訪問診療

私は九州にある、小さなクリニックで医者として、訪問診療を行い生計を立てている40代の独身貴族です。

 

1日に10〜15名ほど診療する忙しい職場なのでその日私は疲れていたのかもしれません。

 

その日最後の診療で訪問診療は初めとていう、中山さんのお宅へ伺う予定だった。

 

年齢は80代後半の女性で1人くらいをしているというわずかな情報しかなく、担当の社会福祉士にこっぴどく文句を言ったのを思い出した。

 

仕事を終えて早く帰りたかった私は僅かな情報と住所を頼りに中山さんのところへ急いだ。

 

15分ほど車を走らせると、中山さん宅であろう薄汚れた家がぽつんとあり、周りには舗装されていない道や田んぼが広がっていた。

 

邪魔にならなさそうな脇道に車を止め、必要な書類を持って家の前に歩くと、どうもおかしな表札が見えてきた。

 

標識には権藤と書いてあり、しかも最近つけたような新しいものだった。

 

情報を渡してきた社会福祉士にイラついても仕事は終わらないので取り敢えず私はインターホンを押した。

 

「すいません、〇〇クリニック、医者の〇〇と言います。本日は訪問診療に伺わせていただきました。」

 

「少しお待ちを」

 

と声が聞こえて程なくするとガチャと玄関が開いた。そこには、人の良さそうなお婆さんがいた。

 

「本日はよろしくお願いします」

 

「遠いところありがとうございます」

 

畳の部屋に案内され、早速仕事に取り掛かろうと思い必要な書類などを渡していく。

 

「現在のお身体の調子はいかがですか?」

 

「内臓が悪いみたいで食欲はおろか、便もあまり出ていません。」などと、診察を進めていった。

 

「わかりました便秘のお薬と胃炎のお薬出しておきますね」

 

「こんな老人にはありがたいサービスです」

 

「いえいえ、また来週伺わせていただきますので、今日はこれで失礼します」

 

今、思えばここですぐ帰れば良かったのだが、何を思ったか、「そういえば表札には権藤とかいてあったのですが…」それ以降は言葉が詰まった、というより詰まらされた。

 

穏やかな顔をしていた、中山さんが鬼のような形相で睨みながら「早く出て行け」ゾッとした私は「失礼します」と言い荷物をまとめて玄関に向かった。

 

1週間後、また、中山さん宅に訪問診療する時間になった。

 

前回の事もあり、重い足取りで向かった。

 

中山さんの家に着くと違和感が襲ってきた。

 

表札の権藤が中山に入れ替わっていた。

 

私はこの話題には触れないでおこうと思いながら前回同様インターホンを押した。

 

玄関から出てきたのは、きつめな顔で優しさのかからもなさそうなお婆さんで中山さんとは全く違う別人だった。

 

「え?あの、中山さんは?」

 

と問いかけると

 

「私が中山ですけどあなたは?」

 

「〇〇クリニックの〇〇です」と言うとそのお婆さんは不思議そうな顔をしていたので、私は先週の事を話した。

 

すると「権藤は私の母で去年亡くなってます」そう確かに言われた。

 

「寂しくて誰かを家に呼びたかったのかもしれませんね」

 

私は怖くなり、すぐ権藤家を後にした。

 

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