全国にたくさんあるトンネルですが、私が住む沖縄県にも、トンネルがたくさんあります。
沖縄県にあるトンネルは、ほかの地域のトンネルとは違い、距離が短いトンネルが多いのですが、その中の一つに、私がいつも通るトンネルがあります。
そのトンネルは、地元の人はよく使うトンネルなのですが、夜9時を過ぎるとだれ一人通らなくなるのです。
今日は、そこで起こったことをお話したいと思います。
私の仕事は、タクシーの乗務員で、夜勤専属で業務をしています。
業務時間は、夕方の5時から次の日の朝5時までなのですが、その時間のお客さんは、大体が飲み屋に勤める女性や酔っ払いが多く、昼勤に比べると、体力を消耗します。
その日も、いつも通り、夕方の5時から勤務していたのですが、なかなかお客さんが見つかりませんでした。
「おかしいなぁ…。いつもだったら、この時間になると、必ず乗るお客さんがいるんだけどなぁ」
いつもだったら、飲み屋に出勤する女性が予約の電話をしてくる時間でした。
その女性は、毎日私のタクシーを使ってくれる常連のお客さんだったのですが、なぜか電話がかかってきません。
「ほかの乗務員に乗り換えられたか?まいったな…」
その女性は、かなり金払いが良く、私の売り上げに貢献してくれている一人だったのです。
「まぁ、いつもと同じ時間にかかってくるとは限らないし、気長に待ちますか」
そう思い、タクシーを走らせていると、通りで手を挙げている男性が目につきました。
「お客さん、どちらまで?」
「〇〇市までお願いしたいんですけど…」
「…わかりました。ドアを閉めますので、注意してください」
私は内心焦っていました。
なぜかと言うと、その男性が言った〇〇市に行くには、通常で行くと、時間がかかるのです。
時刻は夜の8時50分。
あの女性が電話してきても、受けることが出来ません。
常連をないがしろにしてしまうかもしれないのです。
私は、トンネルを通れば近道になることに気づきました。
トンネルを通ることを告げると、青ざめた顔をした後、男性がこう言ったのです。
「すいません。そのトンネル、ゆっくり走ってもらえますか…」
「えっ…。はい」
「お願いします」
私は断ることもできず、男性に言われるがまま、ゆっくりと走りました。
しばらく走ると、トンネルの中間あたりに差し掛かりました。
男性が気にしている様子で、外を眺めています。
「あの、どうかしました?」
すると、男性は、
「えっ‼…いいえ、何でもないです」
かなり焦っている様子でした。
私が外を見ると、そこには、血だらけで倒れている女性がいました。
驚いた私は、タクシーを止め、女性に走り寄りましたが、女性の顔を見て、驚きました。
なんと、いつも電話してくる女性だったのです。
どう見ても、もう亡くなっていました。
「やっと死んでくれたか…」
後ろのほうで声が聞こえました。
振り返ると、お客さんの男性でした。
よく見ると、手には血が付いているではありませんか。
女性は、男性に刺され殺されたようでした。
怖くなった私は、タクシーに飛び乗り、男性を置いたまま走り出しました。
その後、近くの警察署に出頭した男性は、飲み屋で知り合った女性を好きになり、女性がほかの客と仲良くしていることに腹を立て、刺したと言っていたようです。
それから、そのトンネルでは、夜9時になると、その女性の霊が現れるようになりました。
助けを求めて、走っている車に近寄ってくるそうです…。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)