同期のハナとは月に2回、一緒に出張に行っています。
移動は社用車なので、交代で運転していました。
行きも帰りも基本はバイパスを通っていましたが、その日はなぜか「下道から帰ろう」とハナが言いました。
でもその下道には途中に避けるべきトンネルがあります。
トンネルの上に火葬場があり、以前から夕方以降は通るべきではない、意識していると必ず身に何か起こると言われていました。
ふとそのことがよぎり、意識してはいけないと思いつつもどうしても心配になったので、
「ハナ、私が運転だからって寝ないでよ!絶対起きててよ?!」とお願いしました。
ずっと話をして盛り上がっていたので、私もトンネルのことをすっかりと忘れていました。
ドリンクを飲んでふと隣を見ると、ハナがうとうとしていました。
え?!今まで笑って話してたのに?とちょっと笑ってしまいながらも「ハナ、寝てんの?今まで話してたじゃんかー!」と声をかけても無反応。
寝ているというよりも意識が飛んでいる、そう感じた途端にトンネルのことも思い出してきて一気に鳥肌がたってきました。
目の前には火葬場の曲がり口の看板。
そう、あと数メートル先にそのトンネル。
必死になってしまい、「ハナ!起きて!ねえ!!!ハナ!」と大きな声で呼びますが反応もありません。
そのまま薄暗いトンネルに入ってしまい、恐怖で寒くなり震えながら運転していました。
なんとか何もなく通りすぎそう!そう確信を持てたとき、
「あっはははははははーーー!あーーーっひぃっはははは!」
急にハナがぶわっと前に乗り出して、大声で笑い出しました。
急な動作と大声に驚いてしまい、「ハナ?!」と呼びかけてもハナは笑い続けるだけ、そして息継ぎは苦しそうなひぃぃという息継ぎで、恐ろしさを感じました。
絶対おかしい、ハナじゃない、そう思いながらも車を停めることはできないので「ハナ!」と叫びながら運転していました。
トンネルを抜けて少し街灯が見え始めたとき、ハナはまた意識を失っていました。
ようやく気味の悪い道路を抜けて、コンビニが見えました。
駐車場に停めて、ハナに声をかけました。
するとハナは目を覚まして「あれ…」と。
今まであった話を全てハナに話しました。
するとハナは一言、「今、ハナって呼んで起こしてくれてありがとう…」とそう言いました。
ハナの話では、トンネル近くになったときに気が遠くなり、身体をのっとられていたと言います。
私が恐怖の体験をしている間、ハナはあのトンネルの中に取り残されていたというのです。
じゃあ私の隣で笑っていたのは…?
トンネルに残されていたハナに私が「ハナ!」と叫んだ声が聞こえたようで、そこでハナが我に返ってすっとまた意識がとんで車に戻ったと。
もし私が声をかけずにそのまま会社に戻っていたら…。考えただけでぞっとします。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)