怪文庫

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あかまんま

私の故郷である東京都八王子市では、盆の時期になると赤飯を炊いて仏壇にお供えをする風習がある。


小さな頃は、盆には赤飯をお供えするのは当たり前のことだったので、この風習を疑問に思ったこともなかった。

 

最近知ったことだが、どうやら赤飯を供えるのはごく一般的なことでは無いらしい。


どうして赤飯を供えるんだろう。

 

「ご先祖様、帰ってきてくれてありがとう」という感謝の気持ちなのだろうか?


疑問に思った私は、八王子の言い伝えについて調べてみることにした。

 

調べていくと、なんとも興味深い伝承が判明した。


時は戦国時代末期、豊臣秀吉は八王子城攻めを決行した。


八王子城を囲む豊臣勢は完全武装の武将達。

 

それに対して、八王子城に籠城するのは小数の武士と近隣の農民、そしておんなと子どもだった。


言うまでもなく戦力は歴然である。

 

しかし豊臣勢は、大した戦力にもならない農民やおんなや子ども達にも容赦なく刀を振るった。

 

城には火矢を射かけた。城は燃え上がり、一日で落城してしまったという。


敗れた一同は、己が誇りだけは守ろうと、大人も子どもも、男も女も関係なく、城の傍にある滝で自刃して次々と川に身を投げた。


自刃した者たちから流れる血でたちまち近辺の川は真っ赤に染まり、三日三晩、濁りが消えることはなかった。


血の濁りが消え澄んだ川に戻った後も、城の麓に住む村人たちが米を炊くと、米が赤く染まったという。


この凄惨な出来事から、亡くなった同胞の無念を弔うために、血に染まった川に見立てた小豆の研ぎ汁で米を炊き、盆の時期に供える風習が出来たんだとか。


無念の下に亡くなった同胞達が、心安らかに成仏できることを、遠い子孫である私も祈っている。

 

八王子城を建立した北条氏照は、文武両道で地元の住民のために良き治世を行ったという。


地元の農民だった小田野氏が氏照に仕え、北条が滅びるまで忠実に仕えていたことから、地元の住人とは良い関係を気づいていたことが窺える。


また、城に立て篭もった者達の親族も麓の村には多くいる。

 

そして、わたしもその子孫の一人である。


こんな惨たらしい逸話をもつこの風習からは「北条を滅ぼし、先祖達を蹂躙した豊臣を。身内を殺めた豊臣を。受けた恥辱を、ゆめゆめ忘れるな」という先祖の苛烈な怨念が込められているように感じるのは私だけだろうか。


そしてこの風習は、落城して400年以上経った今でも、八王子に住む子孫達に脈々と受け継がれているのである。

 

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