図書館に読んではいけない本があるという。
読むと必ず後悔してしまうらしい。
稀覯本なのか発禁になったものなのか詳細はわからないが、白っぽい表紙にあまり興味をそそられないタイトルであるという話を聞いた。
図書館や本とは縁のなさそうなギャンブルに人生の20%は支配されている友人に聞いたので信憑性に関してはかなり低いものと感じている。
だいたい図書館の本は管理システム下に置かれており所属のはっきりしない本なんかあるわけがないし国民の税金で買われている本なので司書さんにより修復をされ大事にされているものだ。
私が小規模というよりやや大きな市の図書館で占いと統計についての文献を探していた。
そこに何やら薄汚れた白に見えなくもない本が高さのある本に挟まれひっそりと置かれていた。
友人に読んではいけない本のことを思い出しなんとも言えない諦めの感情でその本を手にとる。
「あなたのためのスピリチュアル~幸運のつかみかた~」と、とても読む気がしないタイトルだ。
占いのコーナーはそこまで大きくないためこのような本が紛れているのだろうかと不思議に思い本の裏を見ると金額を読み取るバーコードが無い上に価格の記載がないのでどうやら個人が出した同人誌を寄贈したものなのだろう。
こんな本をわざわざ寄贈したのかと中を開くと「ここでこの本を手に取り、目を通し出したあなたへ」といった感じの書き出しの文章が大きく1ページ目から踊る。
やはりなんとも胡散臭く読む気がしないので棚に戻すことにする。
返す前にぱらぱらとめくり並んでいる字を眺めるように見たあと元の場所に戻し、お目当ての占いを多角的に分析した本を借りて帰ることにした。
帰路はまだ明るく散歩をしながら帰るのにとても心地がいい、ふとこのような気分の良い日は宝くじなどを買うといいとうことを思い出した。
あの図書館で見たなんともいえないスピリチュアルの本のことが頭をよぎる。
ぱらぱらと眺めている時に目に入った文章に宝くじを買うなら今をおいて云々、との一文が思い出されたのだ。
続く文章は全く覚えていないが、まあ何かの縁だというように占いの本も手にしてるので付近のあった宝くじ売り場でスクラッチくじを買うと10枚入りのうちなんと3000円と300円が当たった。
大変気分よく高い缶ビールをコンビニで買って帰りささやかな祝杯をあげた。
2週間後、図書館から本が貸し出し期限を過ぎているとメールが届いた。
司書さんに謝りつつ図書館をふらついていると例の本のことを思い出した。
まだそこに例の本はあった。
読むのも恥ずかしいタイトルだ。
今度はあとがきや発行者を見てやろうとめくると奥付けの余白に「ビールはおいしかった?」とペンで乱雑に書かれた手書きの文字が目に入る。
なぜか背筋が冷たくなる感じがし乱暴にその本を棚に返し、図書館のトイレ個室に逃げ込み落ち着くのを待つことにした。
落ち着く過程で友人に図書館の読むと後悔する本について聞いてみようとメールを送る。
適度な間をおき返事がくる。
「ああそんなこと言ったな」と文は続く。
曰く、ギャンブルをする顔見知りが教えてくれたのだとのこと。
その本は今から当たるスロット台の場所など、やるべきギャンブルがつらつらと書かれている預言書のようなものだという。
最初こそ少額だが図書館の貸し出し期限の2週間の間に読み進めていくと最後には自分が望んだ金額が手に入るというものらしい。
そこまでメールを読むとあの本があったところに素早く戻り探す。
探すが見つからない。
本の検索システムに打ち込むもその本そもそも所蔵になく貸し出しの履歴なんかもなかった。
背筋が寒くなったり興奮して図書館にもどったりし、我ながら何をしているんだと冷静になる。
ギャンブラーの戯言に踊らされたことに恥ずかしくなり息を整え、さらに来たメールに目を通すと「その本は最初から最後のあとがきまでちゃんと読んだ時だけちゃんと預言のようなものの効力があるらしい。途中で読むのをやめると幸運はそこで終了、額の低いジャックポットを開くようなものだ」と締め括られていた。
多分もうあの共感性羞恥心を感じる本を見つけられないであろう予感があった。
見なければ、あの本を見つけなければよかった。
読まなければこんな気持ちにはならなかったのだろう。
3300円で私はジャックポットを開いてしまったのだ。
ただの偶然といえばそこまでだが出来すぎた与太話を信じてしまうほど金の魔力のすごさになんともいえない、後悔のようなものを心に抱えるのだった。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)