怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

怪文庫

旅館のトイレ

私の父の田舎のA県は見渡す限り畑に囲まれていて、実家もなんだか倉庫みたいなところでした。

 

毎年夏休みに父の田舎の旅館に泊まりに行くのが習慣でした。

 

海で泳いだり、旅館でごはんを食べたり、父方の祖父と祖母に会いに行ったりしました。


一昨年の夏、私は中学二年生で父と母といつものように車でA県に行きました。

 

駅に着いたら近くの和食屋さんで昼食をとり、その後旅館に行きました。


毎年同じ旅館に泊まっているのですが、少し年季の入った旅館でした。

 

小さい頃は自宅以外に泊まること自体が怖くて、夜寝るときに母にくっついて寝ていました。

 

中学生になるともうそんなことは無くなりましたが、一人で外のトイレに行くときは結構怖いんです。

 

トイレの手洗い場についている鏡を直視できなくて、夜は絶対に母を連れて行きました。


去年の旅行は二泊三日で、一日目は旅館でゆっくり、二日目は海とおじいちゃんの家、三日目はお墓参りをしてから帰宅、というスケジュール。

 

一日目はぐっすり眠りました。


二日目、朝起きると、母の具合が悪いらしく、旅館の朝ご飯を半分以上残していました。

 

海に行けるような体調では無かったようなので、二日目の海は行かないことにしました。

 

ただおじいちゃんの家には行こう、という話になり、車で20分程度のその家まで行くことになりました。

 

その前にトイレに、と旅館のトイレに一人で行きました。

 

外は曇り空で、トイレの窓の外からは生ぬるい風が入ってきました。

 

五つある個室のうち、奥が一つ閉まっていたので、私は一番手前の個室に入りました。

 

水を流して個室を出ようとしたとき、隣の個室からゴン、とノックするような音が聞こえました。

 

隣の個室には誰も入っていないはずで、何かが倒れて音がした、などもありえないのです。

 

そのとき携帯電話は部屋に置いていたので、家族を呼ぶこともできず、自分で出るしかありませんでした。

 

私は個室のドアを開けると、手も洗わずにドアを開けて、走って部屋に戻りました。


そのときは本当に怖かったのですが、時間が経つとだんだん記憶も薄れ、気のせいだったんだろうと思うようになりました。


おじいちゃんの家に着くと、おばあちゃんが家の前で待ってくれていました。

 

 

車から降りて、挨拶などをして家にはいろうとするとおばあちゃんがそれを止めました。

 

おばあちゃんは家の裏へ行き、戻ってくると私たち3人に大量の塩をかけ始めました。

 

「何するんだ」とお父さんが言うと、おばあちゃんは「危ないのがついとる」と言って、それ以外は何も言わず、家に上げてくれました。

 

おじいちゃんとおばあちゃんと一時間ほど話し、そろそろ帰ろうというとき、おばあちゃんが「B(私の名前)ちゃんは来年受験生やね?」と聞いてきました。

 

そうだよ、と言うと「じゃあ来年は来やん方が良い。ここらに旅館はあそこしか無いし、勉強大変やろ」と。

 

それは何のことなのか、詳しく聞きたかったけれどお父さんに急かされて旅館に帰りました。

 

母は旅館に着く頃には元気になっていて、その後は予定通りに過ごしました。


そういえば二日目に旅館に帰ってきてから、私はトイレに行くとき母を必ず連れて行ったんです。

 

そしたら、音がしたとか怖いことが起きた、なんてことは無かったんですけど、いつも奥の個室に誰か入っていたんです。

 

もちろん用具入れは別にありますし、一日目には空いているところを見ました。

 

物音一つも聞こえなくて、少し不気味でしたが中を確かめる勇気はありませんでした。


私たちが自宅に帰った後、A県のあの旅館で死体が見つかったというニュースを見ました。

 

それが見つかった場所は、あの女子トイレの奥の個室だったそうです。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter