怪文庫

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骨折の治験バイト

昔から製薬会社には、「骨折の治験バイト」が行われているという都市伝説が存在しています。

 

会社が新薬を作る時には必ず治験をする必要があり、世の中には実際に骨折を治す薬が存在するのだから、骨折バイトがあって当然というようなことです。

 

骨折治験バイトは故意に骨を折るとてつもない有害事象であり、そのためにものすごい報酬を貰えるとも言われています。

 

しかこの治験の募集は存在しないし、参加した人を世間では見つけることができないため、単なる都市伝説として片付けられているのが通常でした。

 

私もずっと半信半疑でしたが、ある時会社の先輩がこう切り出してきました。

 

「俺骨折バイトやったことあるよ」と。

 

これはその先輩から聞いた話です。

 

私の会社は某所にある、有名企業の下っぱの工場です。

 

仕事内容は資材搬入と製造と搬出などがあって、毎日のように期間バイトが雇われています。

 

そこにいた先輩のAさんは見るからにヤンキーで、頭のネジが2~3本飛んでいるようなタイプでした。

 

ある日の昼食時、Aさんは数人の仲間の前でむかし話を始めました。

 

ヤンチャでこんな悪いことしたとか、刑務所に服役したとか現実離れした話ばかりです。

 

しかしAさんは体じゅうに傷がちょっと目立つ人だったので説得力がありました。

 

その話が盛り上がった時に、骨折の治験バイトの話がでました。

 

20歳頃にヤンキーの抗争に巻き込まれたAさんは、喧嘩のあとに体調不良が続いたので病院に行ったそうです。

 

すると腹部のダメージが酷くて、内蔵のほうに色々な症状が起きていたとか。

 

それで入院を余儀なくされてしまったんだそうです。

 

2ヶ月ほどで内蔵の状態は改善したAさんでしたが、その頃に見知らぬ医療関係者がやって来るのでした。

 

そして治験のバイトをしてみないかという話をされたといいます。

 

ハイレベルな有害事象を含むと言われたのですが、その治験報酬が1ヶ月で100万円を遥かに超えることも可能と提示されたので、お金に困っていたAさんは飛びついてしまったのです。

 

病院を退院する日になると、Aさんは家族だけにはしばらく出張で留守にするからと伝えて、その日のうちに関東の郊外にある研究施設に入ったのでした。

 

そこは某製薬会社の研究所だったそうです。

 

広い敷地奥に進むと、治験バイトが滞在する寮というか病室のような部屋があてがわれて、研究所での生活がスタートしていました。

 

研究所内には売店やカフェやジムなどもあって、初日から滞在には何も困らない感じだったそうです。

 

そしてAさんの過酷な骨折治験バイトは、翌日から始まることになりました。

 

この日の治験の参加者はAさんだけではなく、すでに治験中の人が十数人もいたといいます。

 

他の参加者も自分同様ちょっとあぶない感じの人が目立つように見えたとか。

 

そこでAさんは研究者から、衝撃的な質問をされることになりました。

 

それはどの程度の骨折までokなのかということです。

 

骨折させる場所は多岐に渡り、腕、脚、指、肋骨などがありました。

 

また骨折の状態も調べるために、単純骨折や複雑骨折や粉砕骨折など、さまざまな状態に折ることも可能なものでした。

 

万力や重しやカッターや医療用レーザーなどを使って、骨を折ったり切断できる仕組みです。

 

その部位と種類の組み合わせによって、多額の治験報酬が出るという話でした。

 

また骨折時には全身麻酔をするのが通常ですが、麻酔をしないで折って痛みの状態を確かめる実験の場合は、お金が良くなったといいます。

 

それに複数か所をいっぺんに骨折しても、お金が増えることになっていたようでした。

 

Aさんは、製薬会社の研究者というのは、相当頭のネジがぶっ飛んでる奴らなんだなと思ったそうです。

 

それで当然ながらAさん、麻酔をしないで骨折を含む、数か所をいっぺんにやることにしたそうです。

 

もう頭がおかしいとしか思えない選択ですが、子どもの頃から猛烈な痛みに慣れ過ぎているAさんにとっては、猛烈な痛みよりも数百万円のお金が重要だったということでした。

 

その治験の作業は簡単で、手術台に寝かされて体をロックされ、何か電動の機械のおもりをぶつけるような感じでした。

 

まず腕の骨折が最初に行われて、強烈な激痛の継続に耐えたというAさん。

 

痛みの具合チェックは2時間以上も続いていたということで、研究者は鬼のようです。

 

それが終わると全身麻酔をして脚の脛骨と指の骨折作業を行いました。

 

麻酔をされてからは痛みがなくなって、気がつくと自分の病室に寝ていたといいます。

 

それからは痛み止めを飲む場合と飲まない場合の調査や、骨折を治す新薬の投与の試験が延々と続けられていたということでした。

 

そんな感じで治験を受けたAさん、ベッドと車いすでの生活が続いたあと、3ヶ月たってから出所することになりました。

 

その時に銀行預金を確認してみると、見たこともないほどのお金が入っていて喜んだのだそうです。

 

ネジがぶっ飛んだAさんの話なので、他の作業員の中には盛ってる話じゃないかと言う人もいました。

 

それに治験の場合は秘密厳守で誓約書を書かされ、違反がバレるとデメリットしかない仕組みなわけなので。

 

しかし刑務所生活すらも面白がっていたAさんにとっては、別に今後バツを受けようがどうでもいいのかもしれません。

 

私はこの話は真に迫っているように思いました。

 

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