怪文庫

怪文庫では、多数の怖い話や不思議な話を掲載致しております。また怪文庫では随時「怖い話」を募集致しております。洒落にならない怖い話や呪いや呪物に関する話など、背筋が凍るような物語をほぼ毎日更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

怪文庫

都心の地下にあるもの

都市伝説やオカルトに詳しい人なら、東京の都心に謎の地下空洞があるという話は聞いたことがあると思う。

 

地下鉄の通らない都心の地下深く、皇居の真下に誰も知らない地下鉄が走っているという話だ。

 

後になってその話の真相は、皇居の人たちが避難する専用車両が設置されているほか、有事の際の避難スペースになるという話だ。

 

その話自体の真偽自体明らかになっていない部分も多いが、オカルトな噂の着地点としては妥当だろう。

 

落としどころがよければ、だいたいのことは気にならなくなるはずだ。


だが世の中には例外もある。

 

それを、私はこの身をもって実感することになった。

 

大きな声では言えないが、私は昔人に言えないグレーな仕事をしていた。

 

かつては介護をしていたが、都会の暮らしで15万足らずの薄給では首が回らず、なんとかお金を都合しなければならない状態だったのだ。

 

そんななか、半○レまがいのことをしていたかつての先輩が声をかけてきた。

 

大学時代からあまりいい噂は聞かない。実は裏でクスリでもやっていたんじゃないかという話もある。

 

最初はその手の案件かと思ったら話は少し違っていた。

 

早い話が医療品の運搬だ。

 

例のコ○ナ騒ぎでマスクやら白衣やら簡易エプロンやらが大量に出荷されており、その反動であちこちのネットオークションではそれらの品が高めで転売されていた。

 

当然転売されているということは誰かが買い占めているということで、本当に欲しい人に適切な価格で届いていないという実情があるわけだ。

 

そうした人に医療品を売買するというのが彼の持ちかけた話だった。

 

ギリギリグレーな案件な気もするが露骨に法に触れる場面もない。リース品を欲しい人にあげるだけの話だ。

 

何より細かいことを気にしている余裕などこちらにはなかった。


私はその仕事をひきうけることになった。

 

幸い運転免許も持っていたし、遠出のドライブついでのバイトだと思えば気も楽だった。

 

仕事は週末の夜中、まずは地方まで車を走らせ医療品を持ち主を回る。

 

相手は転売ヤーギリギリというか、転売ビジネスを始めようとしたはいいが買い手が見つからず家で在庫を腐らせているといった手合いだ。

 

そうした面々から商品を買い取り、目的地へと運搬していく。

 

少し大きめのバンにギチギチに詰め込む具合になったが、この分では問題なく業務はかたづきそうだ。


「な、楽だったろ」助手席の先輩はへらへらとそう言い、窓の隙間からたばこの煙を吹かしている。

 

私はうまくいった安心感やら後ろめたさやらでむず痒い気分だった。

 

とりあえず早くこの仕事を終わらせて帰りたい。

 

この分なら今日の仕事だけで1か月は心配しなくてもよい額が手に入る。


そうして数時間後、例の荷物を運搬して回る。

 

相手は株式会社や有限会社の医療施設、確かに医療品をこっそり安く手に入れたいと考える手合いとしては妥当だろう。

 

 

一通り配り終え、次が最後の現場となった。

 

そこは高齢者が入居している格安の老人ホームだった。

 

外観を見て格安だとすぐにうなずける、見てくれはいいが玄関越しの内装はボロボロ、建物の中から排泄物の混ざり合ったような嫌な匂いや痴呆老人の甲高い奇声などが漏れている。

 

あまり気持ちのいい場所ではない、すぐに立ち去りたい。

 

荷物を置きながらそう思っていた矢先、建物の中から誰かが出てくるのが見えた。


「○○さん」先輩の名前を呼ぶその中年男性の声に先輩が視線を向ける、その目つきが一瞬不気味だった。

 

危ないことを平気でするが悪人ではない、そう思っていた彼のイメージに影を落とすような、見たこともない表情だった気がする。


「突然ですが、またお願いします」

 

「・・・・・・」

 

くたびれた様子の中年男性、おそらくこの施設の管理者だろう。

 

彼の弱弱しい声に先輩はしばらく彼を見つめたのち、ゆっくりと玄関の向こうへ視線を泳がせた。

 

つられて私も視線を向ける。

 

袋だ。

 

やや細長い、ちょうど抱き枕くらいの大きさの袋が玄関先に置かれている。

 

黒いビニールで覆われているうえ、包装テープもギチギチにまかれておりやけにものものしい。

 

地面にどさっと置かれているあたり結構な重さであることもうかがえる。


「わかりました、こちらに。おい、お前はエンジンつけておけ」

 

そう車を指さす先輩の言葉には有無を言わせないものがあった。

 

いわれるがままエンジンをつけ、後部座席に荷物を置く二人を見やる。

 

やけに慎重だ。ワレモノでも入っているのだろうか。


「出ろ」

 

いつの間にには乗り込んでいた先輩に声を掛けられる。

 

先と同じような有無を言わせない、刺すような声。

 

それに意を唱える暇もなく、私は車を夜の街へ走らせた。


運転中、先輩は何もしゃべらない。

 

ただカーナビを見ながらカチカチと目的地を入力しているだけだ。

 

気まずい沈黙が流れていたが突然、


「あーいう施設は多くてな」

 

ぽつりと先輩は切り出した。

 

「いわゆる姥捨て山?みたいな。家族じゃ面倒見切れないジジババや生活保護の孤独老人なんかがアソコに行き着くわけだ。オマエが働いてた施設とはだいぶ違うよな」

 

窓から夜の景色を眺めながらそう呟く彼の目に、見たこともない闇を垣間見た気持ちになった。


車が目的地に着く。

 

病院か?大きく整った建物だが、道の脇、ほんの細道の奥に、地下鉄の階段のようなものが見えた気がした。


「ここでいい。お前はもう帰っていいけど、どうする?」

 

お札の詰まった茶封筒を手渡しながら、先輩は落ち着いた様子で聞いてくる。


一瞬ためらったが、なんだか嫌な予感がしてここで別れることにした。

 

人気のない帰り道を歩きながら、ふと気になって振り返る。

 

視線の奥にはまだあのバンが止まっていて、先輩とおぼしき小さな影があの袋を担いで奥の階段へ歩いていくのが見えた。


その時、これは気のせいかもしれないが、きのせいであってほしいとも思うが、闇夜に消えていく先輩の抱えている袋が、ほんの一瞬、ぴくりと動いたように見えた。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter