怪文庫

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ある女性との奇妙な出会い

私の地元にはいくつかの怖い話がある。


その中のひとつが「図書館の絵」。


私が中学生の頃、地元の図書館の入ってすぐの壁に一枚の油絵が飾ってあった。


A3サイズくらいの女の人の肖像画で、イメージとしてはモナリザみたいな美人で落ち着いた女性がこちらを向いて微笑んでいる絵。モデルは長い黒髪の日本人で、背景は特になくクリーム色っぽい感じだった。


作品名と作者名の表記はなかった。有名な画家の絵ではなさそうだった。


額に飾られていたわけでもなかったし、地元の人が描いた絵の展示だったかもしれない。


でも何年もその壁に飾られていたのはよく覚えている。

 

私が小学生の頃からその絵について地元の子達の間で流れていた噂があった。


「どこにいても目が合う」とか、「視線が追って来る」とか、それこそ小学校に飾ってあるモナリザの怪談話と同じような内容。


私も時々図書館を利用していたけど、絵の視線が追って来ることはなかったから、ただの怖い話くらいにしか思っていなかった。


中学生になるとそんな怪談話も下火になっていた。


でもある日の夕方、私が図書館に本を探しに行ったときに何故か入口の絵が気になって、いつもは素通りする絵に近づいて見に行ったことがある。


肖像画の女性の黒い瞳が動いたような気がしたのだ。


絵は私の身長と同じくらいの高さにあったので、真正面から顔を覗いた。


その時、黒い瞳と「目」が合った。私はそう思った。


それはキャンバスの絵ではなく、紛れもなく人と目が合ったときの感覚だった。


周りに誰もいなくて、館内はいつも以上に静かで、私は怖くなって図書館を出た。


それから何度か図書館には行ったけど絵がおかしかったのはこの一度だけだった。


やっぱり気のせいだったのかなと思って、このことは誰にも話したことがない。

 

私の地元にはいくつかの怖い話があると先に触れたけど、もう一つ有名なのが駅のすぐ側の踏切だった。

 

この踏切が「この世とあの世の境界になっている」と、これも小中学生の時の噂話で、この踏切が通学路になっていた友達はけっこうビビっていた。


みんな、誰が広めたかわからないカタカナの呪文を唱えながら踏切を渡っていた。
(その呪文はもう覚えていない)

 

ここからがちょっと不思議な話。


私が大人になってから会社関係で知り合った三つ年上の女性が、偶然にも同じ中学校の先輩だった。

 

小学校は別で、ちょうど三学年違うので中学校で被ることもなかったけど、同じ英語の先生の授業を受けていたりして話が盛り上がった。


せっかくなので、と仕事帰りに一緒にご飯に行って、地元話に花が咲くと、先輩はこの踏切で起こった不思議な体験を話し始めた。


結論を先に言うと、先輩は踏切を渡ってあの世?異世界らしき世界に行って来たらしい。

 

仮に先輩をA子さんとする。


A子が高校生の頃。彼女は夕方の学校帰りにその踏切で電車の通過を待っていた。


周りには買い物帰りの主婦や自転車の学生などが数人いた。


電車が通過して遮断機が開き、A子はいつものように踏切を歩いて渡った。


A子は子どもの頃から怖い話を信じないタイプだったらしい。


もちろんもう高校生だし、カタカナの変な呪文も唱えない。


いつもの帰り道、いつもの踏切。


そう思っていた。


A子は渡り終わった後で気づいたそうだ。


誰もいない、と。


自分と一緒に電車を待っていた主婦や自転車の学生、向こうから渡ってくるはずの人たちも誰もいなかった。それどころか、その先の道にも後ろ側にも誰もいなかった。


それでも、A子は「気のせい」くらいにしか思っていなかったらしい。この町自体、元々人通りが多いわけではない。


呑気なA子は「今日はきっと図書館が空いているだろうな」なんて思い、少し勉強してから家に帰ろうと図書館に寄った。

 

 

A子は図書館に入ると、壁にかかっている例のモナリザみたいな肖像画の前で足を止めた。普段は素通りするけど、絵の中の女の人の視線が追って来て、まるで自分を呼んでいるように見えたのだとか。


A子が絵に近づいて顔をのぞくと、黒い瞳と目が合った。


絵の女性と目が合ったのではなく、瞳の奥にいた「女の子」と目が合ったらしい。


その女の子は一歩後ろに下がり、怯えた表情のまま小走りでどこかに去ってしまった。


しかもそれは、自分が卒業した中学校の制服を着た、見たことのない女の子だったのだとか。


その瞬間、図書館の中が急に寒くなったらしい。


それと、なんとなく周囲が歪んで見えたというか、直感的に「図書館に閉じ込められる」という感じがしたという。


A子はここでようやく自分が別の世界に居ることに気づいて、あわてて踏切まで戻った。息を切らしながら端って道の先に踏切が見えてくると、カンカン鳴り響きながら遮断機が閉まってしまった。


その時、A子は「私、もう帰れないかも」って本気で思った。


だけど、そのあと誰も乗っていない電車が通過して、遮断機が上がった。


それで、一か八かで踏切を渡ったら、いつもの人がいる町に戻って来られたのだとか。

 

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