怪文庫

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向日葵畑

小学生の頃の話だ。私は学校帰り、よく自転車で30分くらいの友達の家へ遊びに行っていた。

 

その日もいつも通り友達の家へお邪魔して、空があかね色に染まりだして帰路についた。


真夏だけあって無駄に蒸暑い空気が、じっとりと汗をかかせる。

 

自転車で飛ばし幾分か涼しい風を全身で受け、今日の晩ご飯はなんだろうと、そんなことを考えていた。


さて、帰り道の途中には、普段使うコンクリートの道とは別に、山の細道を通って帰れる道がある。


その細道に差し掛かった時、ふともう遅いし近道しようと思い立ち、そちらの道へ行くことにした。


細道に入り、同じような木々の間を進み数分経ったくらいだろうか、唐突に既視感のない道に出たような気がした。

 

周りは相変わらず木々で覆われている。森の中なのに既視感云々とは何言ってるんだと思われるかもしれないが、確かにどこか雰囲気が違うのだ。

 

思わず立ち止まったが、たまにしか通らない道でもあるし山の風景は少し葉の数が増えるだけで印象が一変するほど容易く変わる。

 

第一、この山道は一本道だから迷うはずがないんだよなと、そこは小学生持ち前のポジティブ精神で、特に深く考えずとりあえず真っ直ぐ行くことに決めた。

 

どのくらい進んだ頃だっただろうか、唐突に、一面向日葵の開けた場所に出た。


どこをみても向日葵のその光景はまさに圧巻で、かなり感動したのを今も鮮明に覚えている。


はじめて見る光景に、迷ったかなぁっと首を傾げながらも道は続いていたので、ゆっくりと周りの向日葵を眺めながら先に進んだ。


その時はまだ、いつもより長く感じた夕焼けにあたりは包まれていたと思う。


途中で体勢を崩して倒れ込み、顔を上げるといつの間にか向日葵畑を抜けていて、すでに月明かりが煌々と輝いていた。


家に着きただいまと玄関の扉を開けると、奥から慌てたように母親が飛び出してきた。

 

 

どこに行っていたのと私を揺さぶる母の声が聞こえたからか、居間からうるさそうに父親が顔を出す。


しかしそんな様子の父親も、私を見るなり目を丸くしてドタバタと何処かへ電話をかけだした。


別に友人の家に寄り夜遅くに帰る事も珍しくなかったし、うちの親はそこまで関心がある様には思えないのだが、この異様な反応はいったい何事か、酷く困惑した。


結論から言おう。私は、3日間ほど行方不明だったらしい。


自分の感覚ではものの数時間しか経っていないのだから、驚いたのは言うまでもない。


母親にどこで何をしていたのかと聞かれ、山の中の向日葵畑の話をしてみたが、

 

「そんなものは無いし聞いたこともない、そもそもあそこの細道は鬱蒼とした草木が生い茂るだけで開けた場所なんて無いはずだ」と言われてしまった。


だが、確かに私は見たのだ。

 

一面に咲き誇る、向日葵を。


小学生の私は、不可思議な体験をしたことよりも、両親に自分が本当のことを言っているのだと信じて欲しくて、どうすればわかってもらえるかと頭を捻っていた。

 

そこでふと、あの場所であまりに綺麗な花を手元に残そうと一本引っこ抜いてきた向日葵があったと、ランドセルをさぐった。

 

そうすると確かに、私のランドセルにはしっかりと向日葵が入っていたのだ。


あれは夢でも幻覚でもないと、その向日葵が告げていた。


そんな様子をみて考え込む様にしていた父親から後に聞かされた話では、あの場所は昔から、この世でもあの世でも無い空間に迷い込むと言われているらしい。


父親も曽祖父から聞いた話になるらしいが当時あった今で言う怪談のようなものに、

 

「夕暮れ時、朱色の着物を着た小学生くらいの子供に導かれると不思議な空間に連れて行かれる」

 

という話があったのだが、

 

その不思議な空間は綺麗に花が咲き誇る花畑で、そここそが私が行った向日葵畑の道のことなのではと。では何故私はその子供ではなく、花畑しか見なかったのか。


日が進むのが遅いのか、常にあかねに染まった不思議な空間に導くことから、その朱色の着物の子は『案内人』と呼ばれていたらしい。


この子は一体何なのかというと、昔その地域で親の居ない姉妹がいて、病弱な妹が早くして命を落としたらしい。

 

それを嘆いた姉もすぐに妹の後を追ったが、あまりに思いが強かった為か、妹が元気な頃のまま、ずっと時の変わらない場所で過ごしたかったという思いがあの空間を作り、姉妹2人で一緒に育てていた花畑をそのまま反映されたのだろうと。


そしてその場所を見守る様に、あるいは病弱で田舎では友達ができなかった妹に友達を作るために、あの場所へと誘う姉の亡霊が案内人として現れるのだと。


そんな話しが語り継がれついに曽祖父の代になった時、元々親がおらず、さらに閉鎖的な田舎であまり良い噂もなかったことからきちんと弔われることも無かった2人の姉妹を供養しようという話になり、近くのお坊さんに事情を説明して墓を建てた。

 

そこからは姉の亡霊がでなくなり、あの空間だけが取り残されたように未だ時折入り口を覗かせるのだと。


花畑から何事もなく帰ってくる者もいれば、神隠しにあったかの様に忽然と姿を消し行方不明になった者も居たらしい。


ちなみにその後、何度も山の細道を通ってみたが、あの向日葵畑をもう一度みつけることは出来なかった。


あの道は一本道のはずなのにね。


代わりに道の端にあった小さな石墓に向日葵を添えてきたよ。


オチも体験した内容も大したことないかも知れないが、とある夏の、私の中で1番奇妙な出来事の話をさせてもらいました。

 

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