これは私が15年前、実際に体験した話だ。
当時、中学3年生だった私は日々の生活に退屈していたのもあって、とにかく刺激に飢えていた。
そんな時に、テレビで世界各地の未確認生物を追い、その真実に迫るという特番を目にした。
所謂、UMAだ。
その特番を見た私は、未知の生物というものに強烈な興味を抱いた。特に惹かれたのは、宇宙人だ。
不確かな目撃情報は数多くあれど、未だ誰もその存在を証明出来た者は居ない。
ならば私が宇宙人と邂逅した人類で最初の人になろう。
今思えば、我ながら子供じみた馬鹿げた発想だったと思う。
だが、当時の私は、そんな事を本気で考え、様々な事を試した。
ネットで載っていた宇宙人と交信する為の呪文をビルの屋上から唱えたり、UFOが着陸するダンスを踊ったりと、検索して出てきたものを片っ端から試した。
その中に、宇宙人は人気のない山奥を住処にしているという情報があった。
それを見つけた私は、人の居ない山に向かう事にした。
幸いにも当時住んでいたのがそこそこ辺境の田舎だった事もあり、山はそこかしこにあった。
親にバレないように家族が寝静まった深夜0時に懐中電灯を片手に家を出て、1番人気のない山に向かった。
夜遊びなど一度もした事のない真面目だった私は、山に向かう道中だけで悪い事をしているという背徳感で気分が高揚しテンションが上がるのを感じていた。
だが、山に入いれば不気味な静けさと夜の山の独特な雰囲気に途端に恐怖を感じたのを覚えている。
それでも宇宙人に会いたい気持ちの方が勝り、恐怖で重くなった足取りに鞭打って徐々に山の奥に進んでいった。
暫く進むと、ふと何か「音」が聞こえてきた。
今思えば、そこで辞めておけばよかったのだが、私は好奇心に押され更に先に進んだ。
徐々にその「音」は近くなっていき、何かの「声」だと気付いた。
「アー、アー」
そんな「声」だった。
私は鳥か何かだろうと思い、その鳴き声がする方に向かった。
そこで見たのは、四足歩行で歩く人の形をしたナニかだった。
ナニかと要領のを得ない言い方なのは、確実に私が今まで見た事のない生物だったからだ。
人の形をしていたなら、それは人だったのだろうと思うかもしれないが、私はアレを人だとは思えなかった。
アレは服を着ておらず、獣のような体毛もなく、素肌が焼け焦げたような黒ずんだ色をしていた。
顔も同様に黒ずんでいて造形までは深く見れなかったが、私はあまりのショックで固まってしまい体感で十秒、アレに懐中電灯の灯りを向けてしまった。
その所為で、明るさに気付いたアレは、私の方に振り向いた。
目があった、気がした。
その瞬間に私は恐怖で震える足を必死に動かして悲鳴を上げて逃げ出した。
正直逃げてる最中の記憶はない。
とにかく無我夢中で走った事だけは覚えている。
必死で逃げて家に着くと、眠れる気がしなかったので布団に包まり、震えながら夜が明けるのを待った。
それ以降、私は山が怖くなり近づくことすらしなくなった。
皮肉な事に、この出来事でなんて事ない平凡な日常が1番だと気付かされた私は、刺激に求める事を辞めた。
今は平和な日々を送っている。
山には2度と近づかないだろうが。しかしアレは一体何だったのだろうか。
今となっては確かめる術はもうないが、確実に良くないものだったと、私は確信している。
著者/著作:蘭童平々(Twitter)