このは私が20代前半に体験した話です。
その頃、私は就職活動中で、色々な会社の面接を受けていました。
しかし、不景気などが影響してなかなか会社の内定がもらえずに苦しんでいました。
一日に会社の面接を二、三件はしごして受けては一人暮らしのアパートに帰宅する毎日を送っていたのですが、そんなハードなスケジュールをこなすうちに精神はどんどん疲弊してしまい、しばらくの間、体がだるくコンビニに行くこともできず部屋に引きこもり横になる時間が多くなりました。
ある程度の日数、部屋で休んだ事で身体のだるさはすっかり回復して、再び会社の面接に行く毎日が始まりました。
しかし、案の定内定はもらえません。
面接帰りの夕方、自宅のアパートまで歩く道中、田んぼ道があるのですが、そこに古ぼけた椅子が置いてあり、何故か少し小太りのおじさんが徐に座っていました。
なんだかちょっと嫌な気持ちを抱いたのですがアパートまで行くにはその田んぼ道を通るしかなかったので仕方なくおじさんを無視して田んぼ道を歩きました。
するとおじさんの目の前を通り過ぎるか過ぎないかの場面で、そのおじさんが急に「ダメだった?」と言ってきました。
最初なんのことを言われているのか分からなかった私は、ひとまずその言葉には何も返さずに、その場から離れることを選択して足早にアパートに帰りました。
さっきの発言は一体なんだったのかと考えると私の中には面接がうまくいかなかったこと以外ありませんでした。
でも「そのことを見ず知らずのおじさんが知っていたわけもない」と思いその日は眠りにつきました。
後日、再び私は面接へと出かけ再び撃沈。
いつもの帰り道、また田んぼ道を通るのですがそこに再びあのおじさんが現れました。
「またいる」
と思い関わり合いになってはいけないと無視しておじさんの前をただ通り過ぎようとしました。
するとおじさんは「やっぱりダメだった?」と言ってきたのです。
なんのことを言っているのかすごく気になった私は勇気を出しておじさんに「何のことですか?」と返しました。
するとおじさんはじっと私の顔を見て「面接」と答えたのです。
私はこのおじさんのことを全く知らなかったので、どうして自分が今面接に苦しめられているとわかったのか不思議で仕方なくなりました。
そして、そのおじさんは私に「これあげる」と言って謎の御守りをくれたのです。
それは紫色の小袋で中には感触から木の板が入っているようでした。
断るのもちょっと怖かった私は仕方なくその御守りをもらって家に帰りました。
翌日も面接の予定が入っていたので、その日はひとまず眠り翌朝、何故かわかりませんが私は昨日もらった御守りの事が気になって仕方がありませんでした。
無意識に私は御守りをリクルートスーツの内ポケットに入れて面接会場に行きました。
待合室で自分の番が来るまでドキドキしていたのですが、内ポケットに入っている御守りを触るとなんだか緊張が和らいだのです。
いよいよ自分の番になり私は御守りを手の中に握り締めながら面接を受けました。
すると緊張が全くなくなり面接官の質問に対しても、すらすらと言葉が出てきたのです。
頭の中で不思議な感覚だと自覚しながら、私は自分のアピールを自然に言えてかなり満足できました。
いつもとは違い清々しい気持ちを抱きながら、アパートに帰ろうと田んぼ道にやってきました。
するといつも置いてあった椅子は無くなっていて、おじさんの姿もありませんでした。
私はおじさんにお礼を言おうと思っていたのですが「今日はたまたまいなかった」と諦めて家に帰りました。
後日面接を受けた会社から合否の通知が届きました。
封筒の中を確認すると御守りを握りしめて受けた会社からで、なんと合格の通知でした。
あの御守りのおかげで受かったと私は喜びおじさんにお礼を言いに行こうと再び田んぼ道に行ったのですが、おじさんは案の定いませんでした。
後日その会社に就職した私は、おじさんのことがやはり気になって何度も田んぼ道に行きましたが御守りをくれた日を最後に一度も会うことができませんでした。
私はひとまず、おじさんのことは諦めてこの御守りが一体何なのか調べることにしました。
ネットで呪物や御守りに詳しいお寺の情報を見つけて後日そのお寺に行ってみることを決めました。
そこはすごく厳かな雰囲気の漂うお寺で私はそこの住職に、「この御守りが一体どういうものなのか」と聞いてみることにしました。
すると住職は顔色を変え突然「この御守りは早く供養したほうがいい」と言い出したのです。
全く意味がわからなかった私は住職に「どう言う事なのか」と詳しく聞いてみると、この御守りには呪いがかかっていて触れている人の生気を奪ってしまう性質があるらしく、緊張が和らいだと感じていたのも単に生気を抜かれていただけだったと分かりました。
その言葉を聞いて私はかなりのショックを受け背筋が凍りました。
そして、その住職の言うことを素直に信じ私はこのお寺にその呪いの御守りの供養をお願いしました。
一体あのおじさんはなんだったのか、そして、どうしておじさんがこの御守りを持っていて私に差し出したのか今となってはわかりません。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)