これは私が小学生の時に体験したお話です。
私は当時、鼻炎に悩まされていてよく鼻水が止まらない小学生でした。
そんな私は2階建ての一軒家に、両親と弟2人と5人家族で暮らしていました。
2階の寝室で家族全員川の字で寝ていたある夜、ふいにトイレに行きたくなった私は寝室を出て、階段を降り1階のトイレへ行きました。
トイレで用を足し、2階へ階段を上っていると、鼻がむずがゆくなってきました。
残念なことに寝室にはティッシュがなく、鼻がむずむずしてきた私はティッシュが絶対にある寝室の隣の「父の書斎」へ行きました。
そこで鼻をかみ、部屋の奥にあるごみ箱に捨てようとしたとき、奥に人が立っていました。
その人の風貌を見る限り、自分とさして変わらない年齢の和服を着た女の子でした。
そんな子が異様な雰囲気を放ち、そこに立っていました。
「君、誰…?」
と私はその子に問いかけました。
しかし、その子が返事をすることはなく、ただただこちらを見ていました。
段々と私はその子が放つ異様な雰囲気にのまれ、恐怖を感じ、急いで寝室に戻り、眠りにつきました。
朝、目覚め、昨夜のことを思い出しますが、寝起きでトイレに行ったことでもあり、寝ぼけてそんな夢をみたのではないかと子どもながらに思いました。
しかし、私の手にはあの時ゴミ箱に捨てるはずだったティッシュを握っていたのでした。
そうそれは、私が確かに父の書斎へ行き、鼻をかみ、何らかの理由で捨てずに寝室に戻ってきた何よりの証拠でもあるのです。
このことを両親に話してみたものの「気のせい」「寝ぼけてた」と言われ、小学生の私が納得するような答えは返ってきませんでした。
それから数年が経ったある正月の親戚の集まりで、ふとその記憶がよみがえってきたのです。
それは、従妹の顔があの時見た和服の子にそっくりだったのです。
その話を母にしたところ、母はこんなこと言いました。
「親戚に顔が似てるのであれば、もしかしたら妹が会いに来たのかもしれないね」
…妹。
私には弟が2人いますが、その弟2人(次男と三男)の年齢は私と次男の年齢差に比べ離れています。
実は次男と三男の間に、生まれてくるはずだった妹の存在があります。
母曰く、もしかしたらその妹が私に会いに来たのだというのです。
その話を聞いて私は少し心があったかくなるような、そんな不思議な感じを覚えました。
ただ一つ気になることがあります。
それは、なぜ『和服』で会いに来たのか。
小学生の私が見た女の子は、妹だったのでしょうか。
それとも…
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)