これは私が初めて青森県で一人暮らしをしていた時の話です。
仕事の転勤で都内から青森に行くことになりました。
今まで旅行などでも青森県には行ったことがなかった私は新たな環境に何故だかワクワクしていました。
引越し先は青森市内の会社が手配してくれたオートロック式のマンションです。
私は元の家から送ってきた荷物を整理していました。
なんとか整理もひと段落し、明日から会社があるということで念のためその日は早めに床につきました。
翌日、初出勤して同僚たちと挨拶を交わすことになるのですが、みんなかなりアットホームな感じで私のことを優しく受け入れてくれました。
前いた職場よりも風通しが良さそうな雰囲気でなんだか仕事にも身が入りそうです。
そんな中、一人の女性社員の方が私に声をかけてきました。
「〇〇さん、今あのマンションに住んでいるんですか?」と。
それを聞いて「はい」と答えるとなんだか顔色を変えて「あのマンションは気をつけたほうがいいですよ」と意味深な助言をしてきたのです。
全く意味が分からなくて、その時は転勤初日だったこともあり深く聞き返すことができませんでした。
仕事が終わり、自分の住んでいるマンションに帰宅。
食事を終えて風呂に入り9時頃部屋でテレビを見ながら寛いでいると突然部屋のチャイムが鳴り出しました。
「こんな時間に誰だろう」とインターホンの画面を覗くとそこには誰もいませんでした。
「気のせいか」と思い再びソファーに座りテレビを見ているとまた部屋のチャイムが鳴り出したのです。
「一体誰の悪戯だ」と思い再びインターホンの画面を覗くとまたそこには誰もいません。
私のマンションはオートロックなので大体の人はエントランスで部屋番号を押しチャイムを鳴らすのですが、部屋の前にもチャイムがついていて「もしかして部屋の前に来ているのか」とドアに取り付けられている小窓を覗いてみると、
そこには見たこともない眼鏡をかけた男性が立っていたのです。
髪型はオールバックでちょっと細身の男性でした。
一体なんの用だろうと直感的に不審に思った私は不用意にドアは開けず一度ソファに戻り10分考え込みました。
その時何故か会社で声をかけてきた女性社員の言葉が気になり居留守を使おうと決断。
しかし、なんだかさっきの人物が気になったので再びドアの前に行って小窓から見てみるとまだその男性はそこにいてドアにさっきよりも近づいていました。
急に怖くなって再びソファーに戻りその人物が帰るのをただ祈ったのです。
大体一時間くらい経ったでしょうか。
もういないだろうと思いまたドアの前まで行き恐る恐る確認すると、もうその人物はいなくなっていました。
いなくなった後も何故か恐怖心が付き纏い私の心はドキドキしています。
ふとマンションの出入り口が気になって、たまたま自室から見えるところに住んでいたので、カーテンの隙間から見てみるとさっきのオールバックの眼鏡の男性が私の部屋を見上げていました。
すごく怖くなってその日は布団にくるまりすぐ眠りにつきました。
翌朝、会社があったので急いで支度をして出勤。
いつものように仕事をするのですが、やはり昨日のことが気になって、どうにも頭が回りません。
なんとか仕事を終えてマンションへと帰宅。
大体着いたのが7時半頃でした。8時頃、いつものように部屋でテレビを見ていると突然チャイムが鳴りました。
また昨日の事が蘇りドキドキしてインターホンの画面を覗くと案の定誰もいません。
そして、ドアの方へと足を運び小窓を確認すると昨日と同じ人物が立っていたのです。
なんだか直感的に出てはいけないと思った私は彼が帰るのを小窓からずっと見張りました。
大体5分くらいでその場からいなくなった男性を見て言い知れない安堵感が芽生えました。
あの男は一体何のために私の部屋のチャイムを鳴らし続けているのか今は全く意味が分かりません。
後日、私のマンションで空き巣の被害があったという事件が判明しました。
現場検証などで警察がマンションを出入りする姿を横目に会社へと出勤すると以前私に声をかけてきた女性社員が再び私に近寄ってきました。
「この前私に意味深なことを言っていたのは、このことだったのですか?」と質問するとその女性社員は小さく頷きました。
私が引っ越してくる前もあのマンションでは空き巣の被害が何件か起きていたらしく、そのことを伝えようとしていたらしいです。
それからしばらくして、空き巣の犯人が捕まることになるのですが、その人物の顔を見てゾッとしました。
何と以前私の部屋のチャイムを何度も押していた人物と同じ顔だったからです。
おそらく空き巣は私とは別の部屋に侵入し物色。
それだけでは満足できなかったのか他の部屋へターゲットを絞っていたのでしょう。
その部屋が私の部屋だったのです。
空き巣の犯行というのは、テレビなどの情報でまずその家の下調べをするのが普通だと聞いたことがありましたから、きっと時間を変えてチャイムを鳴らしていたのは、その家主がいつ帰宅しているのかなどデータを集めていたからだったと推察できます。
そして、オールバックや眼鏡など身なりを整えていた理由はもし部屋から家主が出てきた場合、怪しまれないような対応をするためのカモフラージュだったのでしょう。
その事実を知ってもし犯人が捕まらずにそのまま野放しにされていたら、私の部屋にも空き巣が入っていたのかと思うと身の毛もよだつ思いです。
その出来事があってから、すぐに私はそのマンションを引っ越して別の部屋を借りることを選択しました。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)