これは私が幼少の頃体験した話です。
私は三人兄弟の真ん中で、二つ上の兄はとても頭が良く優秀、三つ下の弟は優しい性格の活発な男の子です。
そんな二人に挟まれて自分はある意味何の取り柄もない男でした。
両親から兄と弟は可愛がられていましたが自分だけは何故か放って置かれることが多く少し卑屈な毎日を過ごしていました。
「こんな境遇、自分だけなのか」と不審に思っていたのですが、三人兄弟の友人がいて同じ次男という立場だったので話を聞いてみたら自分と同じで親から可愛がられた経験がないということがわかり、なんだかスッと気持ちが楽になったことを覚えています。
そんな私には、祖父母がいるのですが主に母方の祖父母のことが大好きですごく懐いていました。
なぜかというと頻繁に家に来ては、お土産として沢山のおもちゃをくれるからです。
兄弟みんなにそれぞれ合うおもちゃを持ってきてくれるのですが、ある日とても不思議なことが起きました。
いつものように祖父母が、わざわざ家に来てくれてお土産と称して兄弟たちにプレゼントを持ってきてくれたのですが自分のプレゼントだけ兄と弟とテイストが違うのです。
兄はすごく面白そうな図鑑を何冊かもらっていました。
一方の弟はとても高価な車のラジコンをもらって大喜び。
しかし肝心の私へのプレゼントは謎のピエロの人形でした。
それもかなり不気味な感じで、よく外国で売られているようなリアルな人形で第一印象としてはとても怖かったことを覚えています。
祖父母の手前嫌な顔はできないと思い子供ながら兄と弟と同じようなリアクションを取りその場はひとまず喜びました。
しかし、そのプレゼントを貰ってからずっとそのピエロの人形の事が気になって仕方がないのです。
自室の机の上に飾っていたのですが、夜寝ていても、そのピエロが動き出すのではないかと怖くなり布団をかぶって無理矢理寝ることも多かったです。
数日が過ぎ私はこのピエロの人形に悩まされているのが馬鹿馬鹿しくなり、学校の友人たちと公園で遊ぶ時にそのピエロの人形を持っていき水鉄砲やおもちゃの鉄砲の的代わりにして遊んでいました。
何故か友人たちはとても喜んでくれて私自身もなんだかその姿を見て有頂天になり時間を忘れて楽しみました。
遊び疲れ気分も上がっていたこともあり、そのピエロの人形を公園の片隅に置き忘れてしまいました。
家に帰り夜になってようやくそのことに気がついたのですが、もうお風呂に入ってしまったこともあり「明日にでも取りに行こう」とその日はピエロの人形のことは放ったらかしにして3段ベッドの真ん中に入り眠りにつきました。
ふと夜中の1時を回った頃でしょうか、玄関の方で「カチャカチャ」と音が鳴っていることに気が付き目を覚ましました。
「何か風が吹いて葉っぱや枝などがドアに当たっているのだろう」と思い目を閉じました。
しかし、その「カチャカチャ」という音が止むことがありません。
それが気になってなかなか寝つけずに布団の中で目を閉じていると、その「カチャカチャ」という音が突然止みました。
やっぱり気のせいだったと思い寝ようとしたらドアが開く音がして、ミシミシと足音が聞こえてきたのです。
家は二階建ての一軒家で一階にはリビングがあり二階に両親の寝室と三人兄弟の子供部屋があります。
一階に両親がいるはずがないと思い、なんだか急に恐怖心が湧き上がりました。
その足音は段々と私が眠っている二階の部屋へと近づいてくるのです。
一体誰なのか分からず、びくびくしながら布団の中で息を潜めていると子供部屋のドアが「ギィー」と開きました。
すごく怖かったのですが恐る恐る布団の隙間から見てみるとそこにいたのは、なんとピエロの格好をした人間でした。
それも一人ではなく男のピエロと女のピエロの二人がいて子供部屋の物を手に取っては散らかしていくのです。
その姿を見て私はすぐに合点がいきました。
きっとこのピエロはあのピエロの人形の化身だと思い早くこの時間が過ぎることを布団の中で祈っていました。
自分は三段ベッドの二段目だったこともありピエロたちと丁度目線が合ってしまう角度で嫌だったのですが、恐る恐る布団の隙間からピエロの様子を確認するとあろうことか女のピエロと目が合ってしまったのです。
その女ピエロの目はなんだかすごく悲しそうで、なぜか自分と目が合ったことで部屋から男ピエロと一緒に出て行ってくれました。
怖すぎる出来事に動揺が収まらず布団の中で目を閉じ縮こまっていたら、いつの間にか朝になっていました。
昨日の出来事が夢だったのかどうか半信半疑だった私は部屋の様子を確認してみると何故か部屋は綺麗に片付いていてピエロが暴れた様子は全くありませんでした。
しかし、夢だとしたらとてもリアルな夢で私の中ではいまいち腑に落ちませんでした。
ふと机の上に目を向けると昨日公園に忘れたはずのピエロの人形が置いてあることに気がつきました。
「昨日はたしかになかったのに」と再び恐怖心が一気に高まりました。
このピエロの人形は完全に呪われていると思い両親にこのことを相談したのですが、全く取り合ってもらえません。
捨てるのも怖いので、この人形をしばらく家に置いておくことにしました。
数日後、この人形をくれた張本人である祖父母が家にやってきました。
この人形のことを聞くには今しかないと思い、たまたま祖父母と私三人だけになったタイミングを見計らって勇気を出して聞いてみました。
「この人形はどこで買ったの?」と聞くと祖父母は「全く覚えていないし、いつのまにか家にあった」と答えました。
次に「どうしてこの人形を私にくれたのか?」と聞くと人形を持ったら何故か私の顔が浮かんだらしいです。
それを聞いて背筋が凍り、「この人形は呪われている」ということを伝えて「早く供養してほしい」と祖父母に人形を手渡しました。
祖父母は私の話を信じてくれたようで後日、呪い専門の業者へ供養しに行ってくれたようです。
その後も、祖父母は頻繁に家に来るのですが人形が一体どうなったのか聞くのが怖くて、その話題にはなるべく触れないようにしています。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)