怪文庫

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ウォークマン

これは私が中学生の時の話です。


2年生の夏、この日、学校に行くと友達が「今日歩いてたらいいもの拾った。」と言い、ウォークマンを持ってきていました。


私達の年代はだいたい皆、スマホで音楽を聴くので、ウォークマンは少し珍しい物でもありました。


彼女は私に「聴いてみてよ。」と冗談っぽく言ってきました。


「知らない人の物勝手に触るのなんて嫌だよ。」と言うと彼女は「だよね。」と言い自分の鞄にウォークマンをしまいました。


ウォークマンをどうするのか聞くと、「とりあえず持ち帰る。いい曲あったら教えるね。」と話していました。


しかし、この日を最後に彼女が学校に来ることはありませんでした。


学校では、精神的に何かあり声が出せなくなってしまったと噂されていました。


それから1年も過ぎた頃、ある日学校に行くと私の机の中にウォークマンが入っていました。


私の物ではないので周りの友達に声をかけると、「それあの子のだよ。ほら、不登校になった人。」と言われました。


1年生の時にウォークマンを拾い、その後姿を現さなくなった彼女のことでした。


「これも入ってたんだけど。」私はウォークマンと一緒に机に入ってたメモを友達に見せました。


【壊して。捨てて。お願い。】メモにはそう書かれていました。


どこか気味の悪さを感じました。


「捨てちゃえば?そう書かれてるし。何か気持ち悪いメモだね。」友達にそう言われましたが、人の物を勝手に捨てる気にもなれず、私はウォークマンをとりあえず持ち帰ることにしました。


家に帰ると2階にある自分の部屋に行き、ウォークマンの電源をつけました。


充電されていたのか電池はまだあり、中には【VOICE】という曲が1つだけ入っていました。


興味本位で私は自分のイヤホンをウォークマンにつけ、聴いてみました。


1分程経っても何も聴こえず、もう壊れてるじゃんと思ったとき、最後にフレーズが聴こえました。


「声をちょうだい」そう聴こえました。


気味が悪くなり、すぐに停止ボタンを押しました。


ですが、曲はなぜか停止されずまた最初から再生されました。


私は怖くなり耳からイヤホンを外し、もう1度停止ボタンを押しました。


しかし曲は止まることはなく、この時は1分も経たずにイヤホンから微かに「声をちょうだい」と聴こえました。


しかも今回は1度ではなく2度「声をちょうだい」と聴こえました。


2度ともフレーズは同じですが、声の種類は違うものでした。


私は怖くなり部屋を出ようとしました。


しかし、押しても引いても扉が開きませんでした。


私は扉を叩きながら「お母さん!開けて!」と1階にいる母を呼びました。


呼んでもお母さんは来ず、曲はまた再生されたのか少しするとイヤホンから微かに「声をちょうだい」と今度は3度連続で聴こえました。


声の種類は3フレーズとも違うもので、女の人の声も男の人の声も聴こえました。


私はメモに書かれていた【壊して。】という言葉を思い出し、ウォークマンを叩いてみました。


ですがどんなに強く叩いてもウォークマンは壊れず、曲はまた再生され、今度は30秒も経たないうちにあのフレーズが4度連続聴こえました。


私は泣きながら必死にウォークマンが壊れるように叩き続けましたが、20秒も経たずにあのフレーズが5度連続聴こえ、次に10秒も経たずにあのフレーズが聴こえました。


そしてこの時聴こえた1人目の声に聞き覚えがありました。


私の記憶が正しければあの声は、不登校になった彼女の声でした。


そして6連続あのフレーズが流れると、ウォークマンの電源が切れました。


やっと終わったと思ったとき、私の後ろから「声をちょうだい」と男とも女ともわからない声が聞こえました。

 

私は恐怖で振り向くことも出来ず、怖くてお母さんを呼ぼうとしました。


しかし何かが私の首に触れると、私の声は出なくなってしまいました。


その後気付くと病院のベッドの上でした。


数時間気を失っていたそうです。

 

 

その後病院の先生からは、精神的なストレスで声が一時的に出ないと診断されました。


その後病院から帰宅すると、私が声を出せなくなったことをからかいに私の部屋に1歳年上の兄が来ました。


兄は私の机に置かれたウォークマンを見つけ、私はそれを持ち出すのを必死に止めましたが、兄は珍しいもの欲しさからか自分の部屋に持っていってしまいました。


そして自分の部屋に戻った兄はあの曲を聴いてしまったのか、兄の部屋から母を呼ぶ微かな声と扉を叩く音が数回聞こえました。


少しすると兄の部屋の扉が開く音がし、そして私の部屋へ兄が来ました。


兄は私の部屋にウォークマンを投げ戻すと何も言わず部屋を出ていきました。


その後私と同じ症状になった兄に母はビックリし、すぐに病院に連れて行きました。


兄も私と同じ診断を受けました。


そしてあのウォークマンですが、数日後、私の部屋にあるのを母が見つけました。


私は紙にこれまでの事情を書いて説明すると、母は出来事については半信半疑でしたが「気味が悪い。」と言い、その後リサイクルショップに持っていきました。


今もどこかであのウォークマンが売られているのかもしれません。


そしてあれから数年経ちますが、私と兄は今でも声が出せずに苦しんでいます。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter