私は当時、大学生で一人暮らしを始めて、とある関東地方のアパートに住んでいました。
私は2〜3日に一回、必ず同じ夢を見ていました。
私は少し大きめな公園で小さな丘の上に立っています。
少し古びた遊具があり、芝生にはつくしが顔を出しています。
そして、公園の隅には赤い椿で彩られています。
私がそこに立っていると、さわやかな風が気持ち良くて、初夏の香りがぐっと広がります。
公園のさらに奥に行くと、大きな気球があります。
視力検査の気球の絵をご存知でしょうか?あのような風景です。
しばらく、公園内を散歩していると赤いワンピースの麦わら帽子を被った、黒くて長い髪の女性がいます。
そして彼女は、なにかをブツブツと言いながら、追いかけてきます。
その女性のことを、私は幽霊だと感じ、捕まったら殺されると思って逃げています。
しかし、とても遅いのです。
浮遊しているのか、足は一切動かさず、テーブルの上でコップが結露で滑るようなゆっくりとしたスピードで追ってきます。
追いつかれたことは一度もないのですし、あのスピードですが、私はとても必死で逃げています。
ある程度逃げたところで私は、自分の荒い呼吸で目が覚めます。
不愉快に起きた私はいつも、" なぜこんなにも必死で逃げていたのだろう?と、疑問に思います。
あるとき、私はバイトから帰った後、戸締りはしたものの、着替えもせず、倒れるように布団で寝てしまいました。
そしてまた、あの夢を見ました。
今度は公園の奥の、気球の近くで立っていました。
その近くに、赤いワンピースの女が立っていました。
その女とまた追いかけっこが始まったのですが、公園の横の道路で足がもつれて転げてしまいました。
膝小僧がじくじくと痛みます。
捕まりはしませんでしたが、女はゆっくりとした滑るような動きで、ものすごく近くまでやってきました。
その時、女の声がハッキリと聞こえました。
「溺れ死ね落ちて死ね首を絞められて死ね窒息して死ね殺されて死ね殴られて死ねバラバラにされて死ね」
すぐに私は体勢を立て直して、走って逃げてるうちに目が覚めました。
私は大学を卒業して、アパートを離れてからぱったりとその女の夢は見なくなりました。
あのアパートの近くにこれといった事件などはありませんでした。
ですが、なにか棲んでいるような、不気味で嫌な気配がする駐車場がありました。
アパートを出る最後の日、恐怖が生み出した幻覚かもしれませんが、そこを通ったときに目の端に一瞬、赤い服の女が写り込んだ気がしました。
あのとき、追いつかれていたらどうなっていたんだろう…。と、今でも思います。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)