怪文庫

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サワムラさんの家

中学の時に体験した話です。

 

私の住む町は田舎だったこともあり、町に中学校が一つしかありませんでした。

 

その学校の生徒であればだれもが知っていたのが「サワムラさんの家」という怖い話。

 

通学路の途中に、いまは誰も住んでいたないボロボロの空き家があり、そこに入ると呪われるというものです。

 

かつて町にあった診療所のお医者さんが住んでいたらしく、もともとは立派な家だったことが窺える作りの空き家で、「サワムラ」という表札が残っていたため、「サワムラさんの家」と呼ばれていました。

 

窓には破れたカーテンがかかっており、隙間から覗くと家具がそのまま残っていて、なんとも不気味な雰囲気。

 

町の子供は、みんなその家を知っていましたが、入ろうとする者はいませんでした。

 

そんな中、同級生だったAという女の子が、私に「一緒にサワムラさんの家に入ってみない?」と提案してきたのです。

 

Aは小学6年生の時に親の転勤で引っ越してきた子で、地元の人間よりもサワムラさんの家の噂に興味を引かれたようでした。

 

「夜にこっそり家抜け出して、入ってみようよ」と言われたものの、私はあまり乗り気ではありませんでした。

 

私の家は放任主義だったので、夜に抜け出すことはそこまで咎められないとは思いましたが、空き家とはいえ他人の家に勝手に入るのは気が引けたのです。

 

加えて、Aの親がかなり厳しい人だということを知っていたので、夜に抜け出してそんな肝試しをしたことがバレたときに、私まで怒られてしまうと思いました。

 

「行けたら行くけど、親に気付かれたら抜け出せないかも。それでもいい?」

 

と聞くと、「もし無理そうなら私ひとりで行くから!」とAはひとりでも行く気満々の様子でした。

 

 

親が厳しいせいか、A自身も賢くしっかりした子だったので、まあ危ないことはしないだろうと思い、夜になって私は「ごめん、やっぱりいけない」とメールを送りました。

 

そうして、次に会った時に改めて謝ろうと軽く考えて翌日登校したのですが、その日以降Aが中学に来ることはありませんでした。

 

担任から、「Aは体調が悪く、急きょ入院をすることになった」と説明された記憶があります。

 

結局、卒業までAの姿を見ることはありませんでした。

 

もし担任やAの親からなにか聞かれたら、あの日のことを話さなければならない。

 

Aをひとりで行かせてしまったことを咎められる。としばらくはビクビクしていましたがそんなこともないまま、高校進学を機に私は町を出ました。

 

親から聞いた話によると、Aが入院したのは本当で、精神病院だそうです。

 

Aの両親は、Aの入院から間もなく離婚し、A父は町から離れた場所へ引っ越し。

 

A母は、主婦の間でも有名なくらい綺麗好きで几帳面な方だったのですが、最近は容姿に気を遣う様子がまったくなく、Aの家は外から見てもわかるほどゴミ屋敷になっているそうです。

 

果たして、Aはサワムラさんの家に本当に入ったのでしょうか。

 

入ったとしたら、そこで何を見たのでしょうか。

 

そこで呪われた結果が、いまのA家の惨状なのでしょうか。

 

真実はわかりませんが、未だにあの時Aをひとりで行かせてしまったことを後悔しています。

 

しかし、そう思う一方で、行かなくてよかったと心のどこかで安心している自分がいます。

 

もし行っていたら、私の家も……。

 

そういえば、サワムラさんの家は、長年放置されて危険ということで、来年ごろに解体されるそうです。

 

解体されるまで、Aのように入ってみようとする子供がいないことを願っています。

 

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