怪文庫

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カブトムシ

仕事がハードで次の休日はリラクゼーションタイムを過ごしたい…

 

忙しい毎日を過ごしていたMは彼女とキャンプ場へ訪れた。


Mは彼女とキャンプ場で久しぶりに自然にかえり、バーベキューやアクティビティを楽しんだ。

 

帰り際、キャンプ場の駐車場付近の道路で何かに目を止めた。


それはカブトムシだった…。


「うわー懐かしい」


子供の頃飼育した経験があるMは、童心にかえりはしゃいだ。

 

都会育ちの彼女は初めて間近で見るカブトムシに驚いている様子で、「イメージより大きい」とカブトムシの迫力を感じていた。


車の通りが多いこの場にいると踏まれるのではないか…

 

Mは危機感を感じ、より自然の多い場所まで運び、木にすがり付くようにそっとカブトムシを放した。

 

「カブトムシなんて何年かぶりに見たけど、昔は夢中で飼育したなぁ」と帰りの車で呟いた。

 

 

キャンプでつかの間の休日を取ったMにまた日常が戻った。

 

仕事の環境は良くやりがいを感じていたが、このところ疲れがたまっていたようだ。

 

そんなある日、悲劇はおこった。


疲れと暑さでくたくたになっていた帰宅時、道路を横断していた際に倒れたのだ。

 

それに周囲の通行人が気がつき、すぐに病院に運ばれたという。


その時、Mは夢を見ていた。


それは幻想的で美しい自然の中だった。

 

Mはその景色の中をただ普通に歩いていた。


「こんな景色は初めて見た…」不思議な感覚だった。


しばらくするとさらに向こう側に美しい山々が並んでいる事に気がついた。

 

あの山にもう少し近づきたい…

 

そう思って歩いていると橋が見えてきた。

 

この橋を渡ればよりきれいな景色に近づける…

 

Mが踏み出すと、足元に何かを発見する。

 

あの時のカブトムシだ。

 

一瞬心配したが、この美しい景色なら危険性はないだろうと思った。

 

瞬間、カブトムシが歩み出した。

 

それは橋とは逆の方向であった。


どこへ向かおうとしているのか…

 

Mはゆっくり動くその姿を見ていた。

 

いつの間にか、背後にはあの時の景色があった。それはキャンプ場で放ったあの場所である。


「この木に戻して欲しいと言っているのかな」


Mはあの時のようにカブトムシを木の側面にすがり付かせるように置いた。


そして橋の方向に振り返ると、そこにはさっきまであった橋がもうなかった。

 

橋ばかりか、幻想な美しい景色がすべてなくなったいたのである。


その時、なにやら遠くで声がしたという。

 

聞きなれた家族の声…そのあとに目が覚めたという事だった。


「夢か…」


「道端で倒れて運ばれたのよ。ずっと目が覚めずに心配したんだから」


心配そうにのぞき込む家族曰く、なんとしばらくの間、眠ったままになっていたらしい。

 

…倒れた時の事をなんとなく思い出し始めた…。


あの時橋を渡っていたら、このままずっと目が覚めなかったのだろうか…。


カブトムシが助けてくれたのか…。

 

Mはそんな気がしてならないのだという。

 

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