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特級呪物

某漫画が話題の人気作になってから、「呪物」とか「特級呪物」って言葉がだいぶ一般化したよね。


「呪われたナンチャラ」みたいなモノは前からホラー番組でたまに取り上げられることはあったけど、それが「特級呪物」って呼び方で紹介されるようになったのって、あの漫画がアニメ化されて人気になってからじゃない?

 

まあ、そういうわかりやすい代名詞があるとラクだよね。


いや、何が言いたいかって言われるとアレなんだけど。ウチにもあるんだわ「特級呪物」。


仏壇のね、真ん中にネックレス?ペンダント?が置いてあるんだけど、その首飾りが我が家の特級呪物ってヤツなんだ。

 

具体的にどう呪われた首飾りなのかっていうと、何人か死人を出してる。


由来はそんなに古くはないらしいよ、曾祖母だか高祖母だかの形見って聞いてるから、四代くらい前から受け継がれてるものってことだと思う。

 

詳しいことはよくわからないんだよね、話を一番知ってるはずの祖母が去年亡くなっちゃって、お嫁さんである母は「知らない方がいい」の一点張りで、首飾りに関してはほぼ何も聞かされてないみたいだから。

 

当然、私もよくは知らない。地金が何で~、とか、使われている宝石が何で~、とか。そういうの全然わからない。


わかってるのは、その首飾りがこれまでにマジのガチで何人かの命を奪ってるってことだけ。

 

そのうち1件は私もよく知ってる。

 

さっき言った、祖母が亡くなったときに起きたことだから。


祖母は遺言で、「首飾りの管理は母に任せる」って前々から言ってたんだよね。

 

あの首飾りは、我が家の最年長の女が管理するものだからって。祖母も曾祖母に、そう言われて受け継いだから、って。でも、それに異を唱える親戚ってヤツが出ちゃって。

 

父の姉、私から見て伯母にあたる人が、「貴重品を嫁が管理するなんて云々」って、ケチつけてきた。


身内をあんまり悪く言いたくないんだけど、その伯母って人がいわゆるがめついタイプの人。

 

セコケチさんとか、クレクレさんとか、そういう言い方するとわかりやすいかもしれない。

 

 

ジュエリーとか宝石っていうだけで、目の色変えちゃうタイプの人。

 

どうやら祖母の生前からずっと、例の首飾りをクレクレと騒いでいたらしい。


もちろん祖母が元気なうちは、伯母が何を言っても頑として取り合うことはなかった。

 

祖母が母に、「値打ちもんだとどこで聞きつけたのか、アレがどういうモノかも知らないで、へらへらと」みたいな愚痴をこぼしたこともあったんだそうだ。

 

斯く言う母も、祖母の生前から伯母の首飾りクレクレに応戦はしていたらしい。


で、問題の祖母が去年亡くなっちゃったわけだ。

 

伯母はここぞとばかりに、母にまくしたてたんだよね。これは私も聞いてた。


『あのペンダントは、地金は純金で希少な宝石も使われている非常に価値のあるもので、それをただの嫁に過ぎない小娘が管理するなんて、図々しいにもほどがある!』


みたいなことを言ってたよ。

 

伯母だって嫁の立場だし、母の方が伯母よりもかなり年下ってわけでもないのに、「嫁のくせに、嫁のくせに」って。後ろからドロップキックしたろかと思うくらいの暴言を母に浴びせてた。


こういうとき、父が毅然と対応できたらいいんだろうけれど、何しろ実の姉でしょ、父からしたら。大好きな母のことを悪く言われることに耐えられなくなったこともあってか、


『そんなに言うなら勝手に持っていけ。ただし何が起きても、うちは一切関知しない』


って言って、首飾りを渡しちゃった。

 

いや、父は頑張ったと思うよ。常日頃から、がめつくて図々しい姉のこと大嫌いで、関わりたくないって言ってた人だから。


父としては、曰くつきの首飾りを母から遠ざけることができるわけだし、クレクレとうるさかった姉……伯母だね、を黙らせることもできるわけだし。

 

悪い判断ではないと思ってたんじゃないかな。

 

正直私も、ヤバそうなシロモノが伯母の手に渡って我が家からなくなるのは悪い話じゃないような気がしてた。


でも、まあ、特級呪物だからねえ。その後の伯母の転落っぷりはひどかったよ。


伯母の旦那さんはそこそこの会社の重役だったらしいんだけど、まずその会社が事件だか事故だかを起こして事業を縮小。

 

伯母の旦那はそのアオリをくらってかなり早期に退職って形で職を失った。

 

もちろん、たっぷりもらえるはずだった退職金は雀の涙程度しかもらえず、その上失職した直後くらいに重篤な病気が見つかったとかで、病院にかかりたいのに保険証がどうこう、って伯母がうちに泣きついてきたらしいけど、父も母も取り合わなかったらしい。

 

伯母の旦那はその後まもなく亡くなったって聞いた。

 

葬式には行ってないよ、私も両親も。行く必要はないし、絶対に行ってはいけないって言われた。


伯母の旦那が亡くなったのと時期を同じくして、伯母の自慢だった息子たちも大変なことになったそうだよ。

 

一番上の息子は車の事故で半身不随、真ん中の息子は浮気がばれたとかで奥さんと泥沼の離婚裁判に突入、末の息子はお子さんが不登校の末自殺。

 

息子たちの家庭はどこもズタボロになっっちゃったって。


伯母が首飾りを持ち去ってから、伯母の旦那の死、そして伯母の息子たちの家庭が崩壊するまで、2・3か月くらいしかかからなかったかな。


え?伯母?

 

亡くなったよ、半年前かな。

 

自殺だって聞いてる。闇金融の借用書が大量に残ってたっていうから、真相はわからないけど。


母曰く、あの首飾りはああやって、長くても1年弱で持ち去った者を破滅へ追い込む呪物らしい。

 

本人だけじゃなく、本人に関わりのある人や家庭までぶっ壊すんだから、まさに特級呪物だよね。


問題の首飾りは、うちの仏壇に戻ってきたよ。毎日、母が水をお供えしてる。


うちに持ってきたのは、たぶん闇金融の職員の人だと思う。

 

カタギっぽくない雰囲気の、スーツのおじさんが丁寧に届けてくれた。


『債権者の持ち物の中にこれがあり、値打ちものなので本当はうちで引き取るのがスジなんでしょうが……。社長が、『絶対に持ち帰るな』『正しい持ち主を探し出して届けろ』『今ならそれで縁が切れる』と言ったもので』


って言ってたな、そのおじさん。

 

あの首飾りのヤバさを見抜ける人が世の中にいたことに、私は少し驚いたかな。


そういうわけで、母に何かあれば私がその首飾りを受け継ぐことになるんだよね。

 

特級呪物とは言っても、正しい持ち主が正しく管理している限りは別に恐ろしいモノではないよ。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter