怪文庫

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トンネルと迂回路

静岡県伊豆半島の某所、海沿いを通る国道にあるトンネルは数多くあるのですが、その中の一つのトンネルで起きた話です。


そのトンネルは、脇に歩道が無い車両専用のトンネルとなっていて、歩行者はトンネルの横にある海沿いの迂回路を通るようになっています。


その迂回路はというと、二人並んでやっと通れるくらいの道に丸太に似せた柵が断崖に落ちないように備わっており、反対側は木々が茂った斜面になっていて、日が暮れてからは通りたくない雰囲気がある歩道です。


そんな迂回路には噂話もあり、前に迂回路の途中で海に身投げした数人がいた話や、夜に通ると何者かに追いかけられた話、誰も居ないのに声が聞こえたなどの話が地元の人には薄っすら伝わっていました。


私も噂を耳にしていた一人なのですが、ある平日の仕事終わりに同僚から肝試しの誘いがあり、心霊的な話は嫌いではなかった私は同行することを決めました。


そのメンバーは、同じ会社の同僚で年齢が近い男女二人と私、それから車を持っている同僚の男友達が加わった四人で向かうことになりました。


同僚の友人が車を持参して迎えに来てくれ、助手席には同僚の男性が座り、私と同僚の女性は後部座席に座って出発し、噂のトンネルの近くにある駐車場に到着しました。

 

 

そこからは徒歩で向かうことにし、仕事終わりと言っても日が暮れるのは少し後になる程度の明るさはのこっていました。


その明るさのせいなのか、迂回路を歩いていても寒気や気味悪さはあまり無く、霊感もないという同僚と、同じく霊感のない私は迂回路を往復する散歩をしたような感じになり、友人の男友達も平気な感じで歩いていました。


むしろ海岸線の綺麗な風景を楽しんだ一行は、近くにあるファミリーレストランで食事をしようと駐車場まで戻って車を走らせました。


小一時間後、ファミリーレストランで食事を済ませた四人は、コーヒーやジュースなど各々注文したドリンクを片手に迂回路の感想を話したり、それとは関係のない談笑などをしながら少し食休みをし、外が暗くなった頃に会計を済ませて帰宅することになりました。


帰宅は同僚の友人が送ってくれることになり、まずは一番離れた場所にある同僚の女性の自宅へ向かうことになりました。


同僚の女性の自宅は、先程まで四人で歩いていた迂回路のあるトンネルを抜けてしばらく車で走ったところにある実家の一軒家でした。

 

車でトンネルを抜けると照明はしっかり灯っていて怖いといった感覚は全くありませんし、車で会話をしている内にトンネルはとっくに通り過ぎるくらい存在はありませんでした。


同僚の女性を実家の前まで送り届け、今度はUターンして再度トンネルのある方向に車を走らせました。


男が三人になっても変わらず談笑しながら私の自宅へと車を走らせ、迂回路があるトンネルを抜けようとした時、少し話の間が空いた時の出来事でした。


私が一瞬だけ後部座席から窓越しに外に目を移すと、運転手の「消えろ!!」という怒鳴り声が車内に響き渡り、私と同僚の男性はビックリして肩に力が入って驚きの声をあげました。


突然の怒鳴り声に動揺した私と同僚でしたが、一呼吸おいてから同僚は怪訝そうに運転席に目を移すと、何があったのか運転している友人に問いました。


運転している同僚の友人は、一つ息を吐いてから冷静な口調で説明を始めました。

 

その内容は、迂回路のあるトンネルを抜けた直後に長い黒髪の女が運転席の窓ガラスにへばり付いてきたとの事でした。


それで怒鳴り声をあげて長い黒髪の女を車から離そうとしたらしいのです。

 

話を聞くだけでは私と同僚は信じられなかったですし、そんなことで車から引き離せるものかのかとも思いました。


しかし、少なくとも長い黒髪の女の存在を匂わせる証拠があり、運転席しながら同僚の友人が自分側の窓ガラスに正面を向きながら指差すと、そこには手形のようなものが二つ付いていたのです。


少し冷静になりたかった私と同僚は、明るさが強いコンビニの駐車場に向かうように同僚の友人に伝え、私の自宅から少し離れたところにあるコンビニへ向かうことにしました。


コンビニの駐車場に車を停車させ、少し沈黙した後に同僚は話し始め、同僚の友人に霊感があったのかと聞くと、今まで言わなかったけど霊感は強い方らしく、自己流で対処することも稀にあるということでした。


実は、同僚の友人は迂回路を歩いている時も長い黒髪の女の存在を認識していたらしく、迂回路の中間付近の柵に海を背にした状態でしがみつくようにぶら下がっていたとのことでした。


しかし、その時は何事もなく素通りできたから無視して歩き、迂回路の復路では消えていたので話さなかったようでした。


ただ、車にへばり付いてきた時は強烈な寒気がしたので対処したと話し、同僚の友人は驚かせたことを私と同僚に謝意を示してしてくれました。


謝る必要は無いと同僚と私は伝え、未だに現実味が無いといった状態で各々の帰宅へと向かいました。


翌日、会社で同僚の男性と目が合い、その後は何もなかったことをお互いで確認していると、そこに一緒に迂回路へ行った同僚の女性が話に入ってきたのですが、彼女を送り届けてからの出来事はショッキング過ぎるので話すのを止めることにした。


霊感は無い私ですが、不可思議な存在を認識する初めての出来事でしたし、窓ガラスに残っていた手の跡は時折ですが思い出すことがあり、あのトンネルを車で通り抜ける時には今でも緊張感が高まるようになりました。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter