これは私がまだ小学校の頃に体験したお話です。
当時の私は好奇心旺盛で、呪いやら怪談やらに興味を持ち、図書室に通い詰めては子供向けの呪いの本を借りまくったり、親戚に「怖い話ない?聞かせて!」と聞きまくる、自分で言うのもなんですが恐らく相当厄介な子供でした。
ある日、呪い大好きな仲間のAちゃんと図書室で手に取った呪いの本で”面白そう!これなら簡単にできる!”と思い試したものがありました。
詳しくは危険かもしれないので書きませんが、それは紙に呪いたい人を思いながら人型を描き、その人型の体に鉛筆を突き刺し破り捨てるというものでした。
その頃、ちょうど私は誰に命令されるでもありませんでしたが、問題行動の多い転校生Bちゃんのお世話係になっていました。
お陰で友達と遊べなくなることも多く、ちょっとした恨みが溜まり”これはちょうどいい!”と思ってしまったのです。
本の指示通りに人型を描き、鉛筆を人型の右手とお腹の2カ所に突き刺しました。
まぁ、こんなもの何の慰めにもならないけど、と思いながら破り捨てました。
心なしかちょっとすっきりしてその日は帰宅しました。
事件は翌日に起こりました。
いつも通り学校に登校し、いつも通り問題児Bちゃんのお守りをしていた時です。
Bちゃんがはさみで爪を切っていたのを停めていた時、右手をさっくりと切ってしまったのです。
ざまあみろと思いましたがふと、”あれ、昨日人型に刺したの、右手じゃなかったっけ。”とよぎりました。
この時はたまたまだったかもしれないので、まぐれだろうと思っていました。
数日後、Bちゃんの右手が治りかけたときです。
「お腹が痛い」
Bちゃんは、あの日鉛筆で突き刺した場所を抑えながら保健室に行き、早退しました。
これはまさか本当に呪いのせいかもしれない、そう思うと怖くなり一人で抱えきれなくなり、呪い好き仲間のAちゃんに話しました。
「私もそうじゃないかと思ってた、なんか怖いからしばらく呪いやるのやめよう。」
私とAちゃんはうなずいて暫く呪いの本や怖い話に手を出すのはやめました。
しかし、これで終わりではありませんでした。
Aちゃんが早退して学校に来なくなって3日後、昼休みに学校裏の雑木林で火災が発生しました。
避難活動は有りませんでしたが、煙が入ってくるからと窓は閉めることになりました。
原因は不明。
ですが先生たちが「恐らく放火だろう、周り住宅も電線もないんだから」と言っているのが聞こえたので、そうなんだろうと思っていましたが、Aちゃんは違いました。
「呪いが飛んじゃったのかもしれない。前に見た本で、思いが強いと飛んじゃうことがあるって書いてあったんだ」
Aちゃんと顔を見合わせましたが、私達にはどうしようもない。
流れに任せよう、と放置することにしました。
その日の帰り道。
Aちゃんと一緒に帰っていた時です。
あと少しでAちゃんの家、というところで道路に紙の破片が落ちていました。
なんだろう、と拾うとお経のような文字が書いてあり、破れた端っこは燃えていました。
よく見ると私達が帰る方向に点々と同じような紙の破片が数枚落ちていました。
全部集めたら願い叶うのかな、と何とものんきにドラゴンボールのような事を思いながら落ちていた紙をAちゃんと拾いながら1本道を歩いていました。
紙の破片の数はどんどん増え、両手でやっと持てるくらいになった時、曲がり角を曲がって前を見ると、Bちゃんのお父さんに羽交い絞めにされたBちゃんが白目をむきながら奇声を発し、本を破りっていました。
不思議なのが、その本は燃えていないのに落ちてくる紙の破片は端がすべて燃えているのです。
私とAちゃんはびっくりして持っていた紙を手放し、Bちゃんを凝視してしまいました。
その瞬間、視界が真っ暗になり周囲から何やらたくさんの視線を感じ、冷や汗が背中をつたう感覚がありました。
”怖い”とはまた別の感情に支配され、足がすくんで動けなくなりました。
その時、Bちゃんのお父さんの「B!大丈夫だから!もう大丈夫だから!!」という叫び声でようやく視界が開けて動けるようになり、Aちゃんとダッシュでその場を離れました。
「今の何だったんだろう」
Aちゃんがそう呟きましたが、私は何も返事が出来ませんでした。
数日後、この件は近所で噂になり、学校でも話題に挙がりましたが、”狐に憑かれていたんだろう”、そう結論付けられあっという間に収束しました。
Bちゃんはこの件があったからか分かりませんが、また転校していきました。
Bちゃんのお守りがなくなり、自分の時間と友達と遊ぶ時間を取り戻して楽しい日々をまた送れるようになった私ですが、もう呪い系は手を出さないと誓いました。
またあのような怖い体験をするのは怖いですし。
でも、呪いはしませんが怖い話は好きなので、たまに聞いたり見たりしています。
聞いている時に視線を感じたり、聞いたり見たりした後に周囲で不幸が続くことは有りますが、これはきっとこの出来事とは関係ないと思います。
因みにですが、あの時の紙の破片、今でも大切に持っているんですよ。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)