怪文庫

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山城の夕暮れ

私は、名古屋市に住んでいるSと申します。


無類の城好きで周りからは「城フェチさん」と言われる程、北は北海道松前城から沖縄首里城まで全国の城を約2000城の攻城しております。


コロナウィルスで大騒ぎになった5年ほど前の10月の終わり頃に名古屋の朝の番組で、たしか土曜日だったと思いますが、女城主の酒蔵にあるI城の紹介がありました。

 

I城は岐阜県にあるのですが、名古屋からは意外と遠くて躊躇していた山城でしたが、番組を見て「今から行きたい」と思い、妻と孫2人を連れてドライブがてらと出かけました。


現地には午後4時ごろに着いたのですが、激しい雨が降り出していました。

 

 

雨が少し小降りになるのを待ってから妻と孫の3人を駐車場に待たせて、一人で雨の中傘もささずに行くことにしました。


この城は悠久の昔より霧が出ることも有名で「霧が城」との別名もあるようで、10月、午後4時半頃という条件もあって、見事に霧が出始めましたが、石段を駆け上がり妻たちを長い時間待たせることもできず恐ろしいスピードで頂上につき見事な石垣に見とれていました。


当然のように他には誰もいず、どんどん暗さも増してきたので足下も危ないので降りることにしました。

 

降りるときには驚くほど石段が滑って何度か落下しかけましたので石段の横の雨が滝のように流れる側面を飛ぶように下山していました。

 

3,40分かかった登りに比べて相当早く下っていたその時、下から人の気配がしました。

 

なんと傘を差した赤いワンピースでハイヒールを履いた女性が登っていたのです。

 

びっくりしましたが、女性の城好きも増えてきているのでご苦労様だなあと、


「今から登るのですか?どんどん暗くなるし雨で危ない。しかもその恰好ならあと30分はかかりますよ」

 

と声を掛けましたが、その女性は立ち止まるのでもなく横を通り抜けて、傘の先端が少し傾く程度のお辞儀をしたような気がしました。


その時なぜか後ろを振り向いてはいけないと感じてなぜか沸き立つ恐怖心で下山速度も速くなり、転がってもいいから早く降りたいと必死でした。


登り口の石段横に来るまで待っている3人が見えてドロドロびしょぬれで真っ青な顔の私を見って慌てて女房が車から降りてきてタオルで拭いてくれました。

 

女房に半時前くらいに女性が通らなかったと聞いたが「こんな時期のこの時間に女性一人でそんな恰好で登るわけがない」と言われて納得しながらしっかり見たけどと思いながら帰路につきました。


話はここで終わりません。


あれから5年ほど経ちますが、何度となく彼女が夢に出てきます。

 

見る回を増すごとにワンピースの赤がどんどん鮮やかになり地に近い色になってきています。

 

傘の位置も変わってシャープな顎も見えてきています。この先、この夢の行く末が怖いこの頃です。

 

著者/著作:喜多海 慧