怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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足をコチョコチョ

私は人生60年を軽く超えています。


母親の影響なのか小さい頃から霊感が強かったようで怖い思いをたくさんしてきております。

 

その手のモノを見たことがある方はわかると思うのですが、そのモノ全体は周りの色とは違って少しグレーがかっていて、やっぱり生気がないですよね。

 

私の場合は本当の恐怖を感じたモノは数少なくて、朝の通勤時におじいさんが横断歩道を渡っていて、車を減速して渡り切るのを待っていると渡りきったところでスーッとかき消えてしまう。


伊勢湾台風で亡くなった地区に入ると激しい頭痛が起こり、吐き気がすごい。などなど…。

 

今回はそんな体験談の中で最も恐ろしい体験を書いていこうと思います。

 

 

10年ほど前に兵庫県の雲海で有名な城を登城していて前を歩いている5人ほどの男性グループの後ろを少し離れて女房と歩いていた時のこと。

 

この城跡に行ったことのある人はわかると思うのですが、車を城跡近くのイオンタウンの一角に止めさせられて城跡のある山の麓までバスで30分おきにピストン送迎してもらうのです。

 

2月の最後の週の朝5時頃着いたのでバスは残り2本とギリギリでした。

 

乗っているのは女性2人組が二組と老夫婦と私達夫婦、そして後ろの席には降車の時にわかったのですが男性5,6人のグループ。(よく見てなかった、興味なかったし)

 

覚えていたのは、2月で現れないと思うのですが昨今冬眠しない熊が出ると情報があるらしく、なるべく若い男性グループの後ろを歩こうと思っていたので故意に夫婦で後ろを歩き始めたのでした。

 

徐々に濃い霧に包まれて緩やかなアスファルトの坂を上りました。


ずいぶん健脚になった女房に感心しながら頂上で見る雲海を楽しみにフットワーク軽く歩いていました。

 

登り始めて30分ほど経つと徐々に前方5メートルほど前が見にくくなって時折吹く風で霧がうっすらする少しの時間だったと思います。

 

前のグループの一番後ろを二分刈りほどの坊主頭の人が、古びたリュックサックを背負って、薄汚れた白いタオルを首にかけて歩いているのがボヤッとして見えました。

 

うーん、なぜかやっぱり全体的にうっすらグレーっぽいんですよ。


背の高さは175cmほどの痩せた感じの30代前半。


このような人はバスの降車時に男性グループにいなかったような気がしました。

 

あまりにも他の5人の年齢や風体と違っているので女房に小さな声で確認してみました。


「あの一番後ろを歩いている坊主頭の人って、バスを降りるときにいたっけ?」


と聞くと


「そんな人歩いていないし。また始まったね」


と言われてしまう始末。


見間違いか…。

 

先頭から3人目までの男性は霧で見えないのですが後ろ3名はうっすらと見えます。


坊主頭もいるし。

 

そんな濃霧も頂上に着いた午前7時頃にはすっかり晴れて山間に少し霧が残った状態でしたので、私達夫婦も城跡を堪能しました。


先ほどの男性グループにも途中で会うことができましたので写真のシャッターをお願いしました。


今いない坊主頭の人のことは聞けませんでした。


どこを見回しても坊主頭をした人はいませんでした。

 

ゆっくり下山しながら開店していた土産物屋さんで買い物を楽しんでバスに乗ってイオンタウンまで。


イオンタウンはその土地土地で売っているものが違うのでお土産を買って車に戻りましたが、朝早かったこともあってか急に眠気がきたので女房の了解のもとに仮眠を車でとることにしました。

 

女房が私が仮眠と取っている間に買い物の追加とトイレに行きたいと言ったので待っている小一時間はウトウトすることにしました。


女房はどうせ帰りの車中でぐっすり寝るので楽なもんだと思いながらグッと寝た直後のこと。

 

椅子を思い切り倒して、蒸れていた足を車のヒーターで乾かすように足を極力まっすぐにして寝ていたのですが、右足の裏がコチョコチョとくすぐったい。


この寒いのに虫が入ってきたのかと足元を見たときに、


ギョッ!


坊主頭の男性が首にかけていたような薄汚れた白色のタオルがヒラヒラと足の裏を撫ぜていたのです。


なぜかアクセルのある車の奥が暗い空間の様に浮かぶタオル。


右足をヒーッと思いながら引っ込めた瞬間。


彼(霊)の右腕と坊主頭が足に迫りながらついてきて一瞬で消えましたが、悪寒で気持ち悪くなりました。


悪い夢だったのか。


そう思った次の瞬間、ぞうきんを絞ったようなひどく臭いにおいが車内に充満しました。


あの薄汚れたタオルと坊主頭の体臭だと思いました。


寒いのに窓を全開にしてドアを全部開けたことを覚えています。


女房が戻ってきたときに気づかれないように。

 

吐き気と尿意と目を覚ますための洗顔のためにそのあとイオンに入ったのは仕方のないことでした。

 

山城好きなのですが、この手の話がもう一つありますので気が向いたら、また書こうと思います。H騨金山城も怖かったですよ…。

 

著者/著作:喜多海 慧