夕方、学校からの帰り道、友達と他愛ない会話をしながらいつもと同じ時間に同じように帰宅していました。
友達と別れたあとは山道の脇を通るコースでしたが…車道の端の方に黒いものがポツンと落ちていました。
近づいてみてみるとそれはまだ綺麗で新しそうなガラケーでした。
持ち主が困っているかもしれないと思った私はそれを拾い上げて、ガラケーを開きます。
中を見てみると電源はつき、シンプルな時計表示のある画面でした。
21時32分…学校の登下校の時間は、もちろんそんなに遅い時間ではありませんでした。
山道ということもありこのあたりでは電波や磁場が崩れるそうでこの時計も狂ってしまったのかもしれません。
私はなんとなく電話帳を覗いてみました。
登録数は1件…「黒車」とだけ登録がありました。
「くろぐるま…?」あまり聞いたことのない苗字でしたが、私は興味本位と人助けの気持ち……いや、興味本位が勝っていたかもしれません。
唯一の連絡先に電話を掛けてみることにしました。
プルルルルル……
ガチャ…
「あ……あの……!」
「キュルルルルル………キュルルルルル………」
高い音が鳴っています。まるでリプレイのように同じ音が何度も鳴っていますが、誰かが出る様子はありません。
私はとりあえず電話を切ります。
通話中のツーツーという機械音とも違います。
気になった私はもう一度かけてみることにしました…
「キュルルルルル…バンッ……キュルルルルル…バンッ…」
さっきよりも音が増えました…リプレイのようにループしているのは同じですが…機械音でもなく…何の音だろう…
また電話を切ります。
これは…なんだろう?一体何に繋がっているんだろう?
私はなんだか気になり始めてしまい…
また電話を掛けます…
もう好奇心しかありません。
「キュルルルルル……バンッ……ぁ…あ"…」
ピッ………びっくりして思わずすぐに電源を切ります。
人の声…男の人の声が聞こえました…
ガラケー落ちてました。拾いましたよ。と伝えるべきところを…いきなり人の声が聞こえてきて切ってしまいます。
「は………っ………」
なぜだかその声が怖くて手や額に汗をかいていました…。
私は一体なにしてるんだろう……??
イタズラ電話にもほどがあります。
「おい…おまえは…なにやっとるんだ…?」
近所のおばあさんが通りかかり声を掛けてきました。
振り返ると…眩しいライトが私の顔に当たります…
そして、この時に景色が既に暗くなっていたことに気づきます。
「こんな遅くまでこんなとこで何やってるだ…?」
山道であまり街灯もないので暗くなってくると危険な場所です…。
「あ…あれ……?あの、電話を拾って……え?」
さっきまで持っていたはずのガラケーがありません。
「おまえ…今なにももってないだろう…?」
あれ?さっきまで電話が…キョロキョロと周りを見渡してもガラケーがありません…
「あ……っ…」
いつの間にか手放していたガラケーを道端で見つけ拾いますが…かなり汚く泥や砂で汚れています。
開いてみても電源がつく様子はありません…。
「あぁ…それ…おまえ…落とし物様に呼ばれたんじゃないか…?大丈夫かおまえ…」
「え……???」
おばあさんに話を聞いた所…
このあたりの道では事故が多かったそうです。
会社帰りのサラリーマンが夜道を歩いているところを後ろから来た車にひかれてしまうという事故が昔は多発していたといいます。
そういう事故があったので、若者が心霊スポットとして夜に肝試しをすることがあったので、危険だと近所の大人がたまに見回ってくれていたそうです。
その話を聞いて…キュルルルルルというのは車のブレーキ…バンッ…っというのは車にはねられた音…そして最後の声は……
そんな考えが頭をよぎり背筋が凍ります。
まるで事故の音を私に伝えるかのような音…
そして…気づいたら夜道になっていたことから…
もしかしたら私は心霊現象的な…何か…危険な状態だったのかもしれません。
好奇心から電話などかけずに最初から警察に渡しておけばよかったと思いました。
心配したおばあさんにそのまま近所の寺に連れて行かれお祓いと汚れたガラケーも預けることになりました。
ガラケーはお寺で供養していただく予定です。
翌日、両親がバタバタとしていたので聞いてみると…
近所の人が亡くなったそうです。
外に出てみると霊柩車が昨日のお寺の方から出てくるところでした。
お寺で葬儀もしていたのでしょうか?
近くで事故があったとのことでした。
時間は21時頃…まさかな…という気持ちが胸の中に広がります。
今日は下校途中、昨日のガラケーを拾った場所には眼鏡が落ちていました。
昨日の住職と同じような眼鏡だなと思いました。
また気になり始めた私は、この休みにでも住職にもう一度ガラケーはどうなったのかなど、聞きに行ってみようかなと思います。
今度は一緒に友達と行こうと思います。
遅くならないように気をつけて…。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)