怪文庫

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幽霊を噛んだ話

あれは今から5年前の出来事です。

 

そのころ、自分は宇宙人などのSFは信じていても、幽霊などの存在は信じていませんでした。


というのも、自分の出身が長崎であるためです。ご存じの方も多いと思いますが、長崎には第二次世界大戦において原子爆弾の投下された場所です。


そんな核兵器が落とされた街は成仏しきれないような霊がうようよいると思うじゃないですか。


だけど心霊スポットといわれるような場所にしかその存在は噂されていません。


こういった理由で信じていなかった私ですが、そんなある日に人生の価値観を変えるような出来事が起こったのです。

 

 

あの日私はいつものように眠りにつこうとしていました。


だけど何か体が重い、息が苦しい。


そう思ってハッと目を開けると、そこには謎の黒い影がいました。


なんだこれは、何が起こっている?


訳も分からずパニックになった私は体を起こそうとしますが、一切体が動く気がしません。

 

(金縛りだ・・・!)

 

そう直感的に思ったのは信じていないといえど、テレビや動画サイトでしばしばそういった情報を目にする機会があったからでしょう。


もがこうとする意志とは裏腹に体は動かず、影は私の体の上をはいずるように動きます。


全身がチクチクと痛むような感覚、血液が通らなくなった後にしびれるような感覚とも言えるものが全身を襲いました。


やがて鈍痛が手足の先からし始めて、何とか動く目を向ければ、体が影に覆われていくではありませんか。

 

ぞっとするような気持でした。

 

まるでこのまま私を消し去ろうとしているのではないかと思ってしまうくらい…。


このまま続くかと思われたその時。

 

影が人の形をとりました。


男だったのか女だったのかはおぼろげで記憶がありません。


しかし確かに人の形をとった影は、あろうことか私の口の中に指を突っ込んできました。


今考えると、言葉にするのもおぞましいですが、もしかしたら私の体を体内から乗っ取ろうとしたのかもしれません。

 

冷たく、つるつるとした感触だったのをはっきりと覚えています。


どうして感触があるのか、どうして口の中に指を突っ込んできたのか当時の私にはまるで理解ができませんでした。


とにかく無我夢中でもがくことにした私は、全身に力をこめます。


しかし影は濃ゆくなるばかり、口の中に入った指は口内を動き回っています。

 

そこで気持ち悪さと、恐怖がぐちゃぐちゃになりながらも私がとっさに取れた行動が「噛み付き」です。


あの感触は忘れられません。


確かに、硬い。たとえるなら骨付きチキンのような抵抗感。


それでも逃れたい一心の私は全力で顎に力を込めました。

 

すると、抵抗感はなくなりかみちぎったような感触。


そして、その瞬間私の金縛りは解けたのです。

 

心臓をバクバクと鳴らしながら周囲を確認するも、周りにはいつもの寝室が広がるばかり。


かみちぎった感触の残る口の中にも当然何も残ってなどいません。

 

こうして私は金縛りをかけてきたであろう幽霊を噛みつきによって退けることができたのです。


その後はすぐに眠りにつくことが出来。朝もよい目覚めになりました。

 

が、話はここで終わりませんでした。


朝起床し、リビングに出ると同居している母親からとある発言が飛び出ます。

 

「あんた、夜に鼻血でも出した?」

 

どういうことだろうか。


夜に鼻血など出していない、確かに血を出しかねないほどのショッキングな出来事は起こったが。


鏡で確認しても自身の鼻に血の出たような跡は存在しなかった。

 

母親は家族全員に確認を取ったようだが、皆が否定したようだ。

 

「なんかあったと?」

 

当然質問をする私。

 

いきなりこんなことを聞かれるなんて今までになかった。何かがあったのだと察するのは簡単だった。

 

「いや、部屋に血の垂れとったけん」

 

部屋に血?

 

ここで私の体を寒気が襲う。


まさか、そんなわけがないと自分に言い聞かせながら。


母親に質問をする。

 

「どこに?」

 

その質問に母親はここ。と言って鼻血のあった場所を指さす。

 

「ここにチョン、チョンって」

 

母親が指をさしたのは家の中で一番大きな窓に面したの部屋の床。


私は鼻血を出したわけでもないのに全身から血の気が抜けたような気分を味わった。

 

「違うならよかとよ」

 

何もないならよかったと私を心配していたのか声をかけてリビングに戻る母親。


その気遣いはありがたいのだが、私は知りたくなかった情報を押し付けられて戦々恐々としていた。

 

恐る恐る窓に近づき、開放する。

 

窓を開けた先には、一か所しかないものの、確かに乾いた血の跡があった。


これは私が実際に体験したことです。

 

果たして、その後は金縛りにあったことはありませんが。あの時の血の色はいまだに頭から離れません。


本当に幽霊がいたのか。いたとして、なぜ噛みつきのような物理手段での撃退ができたのか。


はたまた、部屋に侵入してきた人間を無意識に撃退したのか。確かめる手段はありません。

 

ですが、この一件以降、わたしは頭ごなしに幽霊の存在を否定することはなくなりました。

 

これを読んでいるあなたも、金縛りにあったらかみつくことをお勧めします。

 

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