怪文庫

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天使のアプリ

天使のアプリってご存知ですか。所謂違法アプリってやつで、あるサイトでダウンロードできます。


失恋したとき、仕事で失敗したとき、理不尽に怒られた時…。生きていると嫌なことってたくさんありますよね。

 

思い通りにいかないことが多い人生の中で、自身の願いを叶えるために最適な答えを教えてくれるものがあるとしたら、どれだけよいでしょう。

 

大抵の大人は、そんなこと無理だって言います。

 

でも、無理じゃないみたいなんです。


「天使のアプリ、ダウンロードしちゃった!」

 

同じ大学に通う友人のともみが、嬉しそうに言うのを聞いたのが始まりです。

 

ともみは大学入学と同時期にできた彼氏に、ここ最近浮気をされて別れていました。

 

新しい彼氏が欲しいと連呼する彼女を見ていた私は、てっきりマッチングアプリか何かかと思って話を聞いていました。

 

しかしどうやらそれは、裏サイト経由の違法な占いのアプリみたいでした。

 

 

厳密には占いというよりは、アプリ内で指定された入力フォームに相談事を書き込むと、「こうすれば願いにそう結果が得られる」と助言してくれるアプリでした。

 

相談掲示板のようなものかと思ったのですがそういうわけではなく、アプリに搭載しているAIか何かが相談に答えてくれるというものです。

 

最近の技術はすごいなあなんて相槌を打ちながらも、内心ではそのような相談は友達である私にしてくれたらいいのにな…と少し不満でした。


「天使様、イケメンとお近づきになりたいですっ!どうすれば良いでしょうか…っと、よし!」

 

と、ともみは1人納得した様子でアプリの入力フォームに書き込んでいました。

 

相談ってそんなざっくりしたものでよいものか好奇心半分、呆れ半分で見守っていると、すぐに天使様なるものから返信がありました。


「〇〇年○月○日○曜日〇〇駅の4番ホーム3車両目のところに8時17分に立ちなさい」


あんなに大ざっぱな質問でかなり細かい返事がきたものだと私もともみも驚き、笑いながらも指定された日時に〇〇駅まで行ってみました。

 

3車両目のところで立ち、「きっと電車から降りてくる人が運命の人なんだ」とか、もしかすると駅員さんの可能性もあるねなんて話していた頃、ふと私の横から風が通り過ぎるのを感じました。

 

ふと見渡すと、ただ、この駅には止まらない特急電車が通過するところでした。

 

しかし電車は緊急停車をしたらしくキキキと大きな軋み音をたてています。

 

と同時に誰かが悲鳴をあげました。

 

「飛び込みだ!」とどこから男性の声が聞こえ、辺りは騒然となりました。

 

泣いている人、スマホを向ける人、吐き出す人色々な人がいました。

 

慌ててともみの様子をみると、顔面蒼白でどうやら飛び込む瞬間を目撃してしまったみたいでした。

 

「しっかり!」と声をかけるものの、とうとうともみはホームに座り込んでしまいました。

 

こんなときに助けられない自分を呪いながら、とりあえずホームから出ようと促しますが、ともみは動こうとはしません。

 

どうしたらよいのか私までも泣きそうになっていると、「大丈夫ですか?」と声を掛けてくる人がありました。

 

私達とそう歳の変わらない20代とみられる男性が心配そうにともみの様子を伺っていました。

 

気分の悪そうなともみの姿を見てお水を買ってきてくれたり、背負ってホームから離れたベンチに座らせてくれました。

 

改めてお礼が言いたいからと連絡先を聞いておき、彼とともみとが後日交際に発展したのは、考えようによっては運命的と言えるかもしれません。


彼氏ができたのは天使様のおかげだと嬉しそうに笑うともみでしたが、5か月が経つ頃まただんだんと表情が暗くなっていました。

 

聞けば件の彼が誰かとコソコソ会っているそうで、ともみは浮気を疑っていました。

 

気になることは聞いてみればよい、思い込みはよくないと諭してみましたが、ともみは聞く耳を持ちませんでした。

 

そしてまた、あのアプリを立ち上げました。

 

そんなアプリに頼るより、彼と話し合ったほうが良いと再三伝えましたが聞き入れてはもらえませんでした。


「彼が浮気をやめてくれるには、どうすれば良いですか?」

 

そう入力フォームに書き込むと、天使様から返信がありました。


「〇〇年〇〇月〇〇日〇〇曜日、〇〇県〇〇市の〇〇旅館に行きなさい」


天使様の返信通りに行動した結果、彼は浮気をやめました。

 

ともみとは別れることになったのです。

 

実は彼は結婚していたらしく、そのことを隠してともみと交際していました。

 

件の旅館には彼とその奥さんが宿泊に来ていて鉢合わせたとのこと。その修羅場といったら筆舌に尽くしがたい程だったそうです。


またも裏切られてどん底に落ち込む彼女を宥めますが、ともみはあのアプリを起動させます。

 

少し休むように言いましたが、私の言うことなど耳に入らないみたいでした。むしろ私が止めれば止めるほど強くアプリに依存していくようでした。


「私が一番に愛されるには、どうすればいいですか?」

 

天使様の返信は比較的すぐに来ました。


「〇〇年〇〇月〇〇日〇〇曜日14時32分発の〇〇行きバスに乗りなさい」

 

とそこには書いてありました……。


看護師が慌ただしく行き来する廊下を横切り、ともみのいる病室へ向かいます。

 

今日はいつも通り花束と、ともみの好きなカステラを差し入れに持ってきました。

 

天使様の返信通りにしたともみは、反対車線を走るトラックが脇見運転をし、ともみの乗ったバスに衝突するという事故に遭いました。

 

凄惨な事故だったらしく、一時はともみの両親も覚悟しておくように言われたそうです。

 

なんとか一命はとりとめましたが、事故の影響でともみの足は動かなくなっていました。


「いつもごめんね」と泣きそうになっているともみの背中をさすり、なんでもないことだと伝えました。

 

友達ならば当然のことだと言うと、啜り泣きながら私の言うことに耳を貸さずアプリに頼っていた自身について後悔していると言いました。

 

その言葉を聞いて、心からともみを愛しく思うと同時に強い満足感を感じます。


ともみからアプリの存在を教えてもらった時、私もともみに内緒で天使のアプリをダウンロードしていました。

 

そしてある日、私も天使様に相談しました。


「友人のともみが私を頼ってくれるにはどうすればいいですか?」


今のところ私は天使様の采配に満足しています。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter