これは私が幼い頃に体験した話です。
当時、私の家では犬を飼い始め、夜に姉と母と私の三人で犬の散歩に行くのが日課になっていました。
その日は普段散歩している道ではないところを散歩してみようとなり、大通りから一本奥へ入った住宅街の車一台が通れるくらいの道を散歩していました。
私の前を母と姉が歩いており、三人で話しながら散歩をしていましたが、なんの脈絡もなく急に母が、
「〇〇(私の名前)は歩くのが遅いから、右手にある細い道から近道しておいで」
と言いました。
姉も「そうだねそうだね、〇〇(私の名前)は歩くのおそいし、近道したらその先の大通りで合流できるから行きなよ!」と同調してきました。
でもその道は大型犬を外で飼っている家があり、その道を通ると大型犬が吠えながら向かってくるので通らないようにと母から言われていた道でした。
当時の私はなんか急に変なことを言うなあ、と最初は思ったのですが、母と姉が意地悪で言っているのだと思い、私は少々ふてくされながら、
「はいはい、歩くの遅くてごめんね、近道して先に待ってればいいんでしょ。」
と言って、その道へ入りました。
五歩ほどその道を歩いてから気がついたのですが、夜だとしても道がやけに暗く、暗すぎるためか真っ黒でまっすぐ歩けているのかもわからないほどでした。
その道は3件ほど一軒家が並んでおり、いつもなら家から漏れている明かりや、その道の先の大通りの街頭でそこまで暗くはないので、今日はみんな出かけてしまっているのか、寝てしまったのか、音も全くせず、なんだか怖いなと思いながらもゆっくりその道を進みました。
でも、途中でいつもなら吠えてくるあの大型犬が全く吠えないことに気がつきました。
私はあの大きい犬急に吠えてきたら嫌だなあ、とおそるおそる進んでいると、
「〇〇ー!〇〇ー!!」と後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえました。
私は母と姉が呼んでることで安心し、よかった、犬に気づかれないうちに早く戻ろうと走って戻りました。
元の道に戻ると、姉と母から、
「どこに行ってたの!急にいなくならないで!」
と怒られ、その時の私は母と姉が言われたからあの道に進んだのに、また意地悪言ってるのかと思っていました。
そこから意地悪されたことでイライラしつつも、あの道怖かったし、あの犬に吠えられなくてよかったと安堵しました。
それからしばらくこのことは忘れていたのですが、中学生くらいになった時、母と私の二人で犬の散歩をしていた際、あの時の道の近くを通りがかりました。
私はあの時小さかった私にめちゃくちゃ意地悪してきたなあと思い出しながら、母に、
「そういえばあの時、私が歩くの遅いから、この道から近道しろって言って来たことあったよね?」
と聞いてみましたが、母は、
「え、そんなことあった??お母さんがそんなこと言うわけないじゃん!」
と言われ、理由を聞くと、この道は外で飼っている犬を繋いでいるリードが長くて、道まで出てこれるから危ないし、何よりそんな小さい子を夜に一人で歩かせるなんてことはしないとのことでした。
確かに小さい子どもにそんなことは言わないよなと思ったと同時に、あの時、いつもなら人の気配を感じた犬がすぐ吠えるのにやけに静かで暗かったことに気がつきました。
それになぜあの時、いつもなら振り向きながら私と談笑していた母と姉が一切こちらを振り向かず、近道しておいでと言ったのか。
あの声は本当に姉と母の声だったのか。
あのまま進んでいたら私はどうなっていたのか。
そう思うと急に怖くなり、母に「あの道ってなんか怖いよね。」と言ってみました。
母は、
「お母さんもあの道怖くてね、だってあの道、途中に神社あるでしょ??」
私は神社があることを全く知らなかったので、母に、「え、あの道に神社なんてあったっけ?」と聞きました。
すると母は、
「あの道の神社、昔は小さいけど鳥居もあって、今むき出しになってる祠も囲ってあったんだけど、家建てる時に邪魔になったのか、それとも家を建てている最中に壊れちゃったのか、今は祠だけ残ってるんだよ。」
と教えてくれました。
確かに一軒家が3軒並んでいる向かい側に少しスペースが空いていたな、母が祠と言っているのは石碑のような岩のようなもののことなんだろうなと思い、
「あれって昔は神社だったんだね、知らなかった。」
というと母は、
「なんの神様かはわからないけど、鳥居もなくなっちゃって、神社ぽくないからみんな神様のこと忘れて、神様が寂しくなって〇〇(私の名前)を呼んだのかもね。」
と言われ、「怖いこと言わないでよ!」と怒りながらその日は家に帰りました。
それから私は高校を卒業してからも、母が言っていた神様が寂しがって私を呼んだのかもね、と言う言葉がいまだに気になっていて、実家に帰省した際はあの祠にお参りをするようにしています。
世の中の神隠して言われる現象は、神様が寂しくて、遊びに誘っているのかなと思うと少し怖さが紛れます。
以上私が神隠しに遭いかけたお話でした。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)