怪文庫

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後ろ向きおじさん

私が学生の頃に聞いた都市伝説です。


「後ろ向きおじさん」という話です。


ネーミング的に可愛いものですが、実際に遭遇した人は2度と普通の生活に戻れないというのです。


そのおじさんは、スーツ姿、中年で背が低く、とても疲れた様子で昼間は公園のベンチに座り、1日中ボーッとしている姿はよく目撃されていました。リストラされたサラリーマンなのか…?


昼間に目にすることには何も問題がないのです。

 

私も実際に見ることもありました。

 

ただ、学生の間で広まる噂話。

「あのおじさんはね、、」

問題は17時以降のこと。17時に近づいてくると昼間の賑やかな雰囲気は消え、同じ公園で遊んでいた子供達は親に連れられサーッと帰っていきます。


そして、おじさんも家に帰るのか立ち上がるのですが、その後の様子がおかしいのです。


ユラユラ揺れて、何か不気味な声で唱えたかと思うと、その名の通り、後ろを向いて歩き始めます。


それも、かなりゆっくりと。

ある日の出来事。


帰宅途中の高校生の男子が数人歩いていると、おじさんの姿を見つけ、その中の一人が声をかけます。


「おじさん、何で後ろ向きに歩いてんのー?」


軽く声をかけただけ。それが命取り。

 

声を掛けた彼は次の日、学校を休みました。


一緒に帰宅していた友人に彼の話を聞いても、誰も分からないと答えます。


そう答えた友人もまた一人、また一人と学校に来なくなるのです。

ヒソヒソ、、後ろ向きおじさんに会っちゃったんだね。

不登校になった彼らはちょうど私の1年上の先輩でした。


「後ろ向きおじさん」と出会って一体何があったんだろう??


休日、昼間に見るあのおじさんは、ただボーっと座ってのんびりしてるだけなのに。私はとても不思議でした。

 

 

そんなある日、同じクラスの都市伝説などが大好きな女子が「後ろ向きおじさん、いつもの公園からいなくなっちゃったの!」と騒いでるのを耳にしました。


いつもの公園は自宅から少し離れた所で、休日、散歩がてらに通る場所にありました。


⁡おじさんが移動??もしかして、リストラされたサラリーマンだって言われてるし、新しい仕事でも始めたのかな?


⁡それに先輩の話にしても、不良っぽい所もあったし、もしかしたら作り話で、学校に来ない口実におじさんに勝手な話をくっつけただけなんじゃない?

私はそんな風にのんきに考えていたのです。


だけど、クラスのまた別の女子が、またおじさんが現れたと騒ぎ、その場所を聞いて驚きました。

それは、私の自宅のすぐ近くの公園だったのです。家から見える距離で歩いてすぐの場所。

なぜ、移動したの???しかも家の近くに??

正直、他人事だった私は、そこまで近くにおじさんが来ていることを知り、少し怖くなりました。

でも、私は帰宅部だから16時半には家に帰るし、後ろ向きに歩いてる姿さえ見なければ大丈夫だろう!!と自分に言い聞かせました。

ですが、ある日のこと、先生に呼び出されて帰宅が17時を過ぎてしまう日がありました。

自宅近くは一本道。あの公園を通るしか帰ることが出来ず、家族に迎えをお願いしようと連絡しても、この日に限って誰も来れない。

まずい、、、。

おじさんが近くに来ていることを知ってから、昼間でも公園を目にすることは避けていました。

冬の夕方。もう17時以降の辺りは暗闇に包まれ、普通に帰るのも怖いものです。

早く家に帰らないといけないと、無意識にはや歩き。


自宅と隣の小さな公園が見えてきました。

その時パッと浮かんだのは今日はもしかしたら、おじさんがいないって可能性はないかな?


そうだ、いつもいるとは限らないし、きっと、、、。

避けていた公園。


いないと信じて見てみると、暗闇にユラユラと揺れているような影が見えました。


ビクッとした私は一時停止。


そこから早歩きではなく、目を瞑り、一目散にと勘を頼りに物凄いダッシュで自宅に帰りました。


誰も帰っていない、静かな我が家。


急いで鍵をしめ、2階に上がり公園も少し見えるカーテンを閉めました。

ピンポーン!!!!!

まさか、おじさんが追いかけてきた?鍵はしめたから、入っては来ないはずだけど、


その時です。

ガラガラガラ。

え?この音は一階の部屋の窓が開く音?なぜ?なぜ開いてるの??


ヤバい、どうしよう、おじさんが入ってきたのだとしたら、、


警察に電話した方がいいのか??

ガタガタガタ、トンットンッ

パニックになっている間に家に入ってきたであろう何者かが、2階に上がってくる音がしました。

どうしよう?私も先輩達と同じことに?そんな恐怖が押し寄せ、震えが止まらなくなっていると、

コンコンコン


「〇〇?帰ってるのね?」

聞き覚えのある母の声。ドアを開けるとそこに母が立っていました。


「おじ、おじさんは???」

「誰もいないけど?」

鍵をうっかり家に忘れ出かけてしまった母。


私が急いで帰ってきたとき、そういえば誰もいないのに開いていた玄関。


窓は開いていたことを思い出し、裏から入ってきたそう。

母のうっかりに呆れつつ、おじさんが入ってきたわけではなくてホッとしました。

そして、暫くすると、またおじさんは違う町に移動したとかで、全く姿を見なくなりました。

後ろ向きおじさん。あの日、公園で見たものが彼だったのか、彼に出会ったらどうなるか、私は詳しい話は知りません。

ただ、都市伝説が大好きなクラスメイトの話では、あのおじさんに出会ったら、最期だよ。っと。

すっかりアラサーになった私は仕事帰りの電車の中、スーツ姿のおじさん達と同じ車両に乗りながら、あの話をふと思い出したのでした。

 

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