幼い頃からおかしな体験はしていたが、まだ小さかったのでそれが「不思議」だとは気がつかなかった。
母からよく、私が1人で誰かとしゃべっていたのよ、という話しはされていたが、今となっては誰とどんな話しをしていたのかは覚えていない。
ただ、母はそんな私が少し怖かったようだ。それはそうだろう。子供が架空のお友達を作り、その空想上の友達と会話しているのはよくある話しだが、私のその「誰か」との会話の内容は、いつどんな風にお亡くなりになって、今、こんな事をしているとか、子供の空想とは全然別だったそうだから。
その霊感体質がピークになったのは10代後半から30代前半まで。
その頃は常に誰かが私の背後又は肩におり、かなり辛かった。
ハッキリと見えているのであれば早く対処法が見つけられたかもしれないが「ただそう感じる」だけでは誰も信じてはくれなかった。
金縛りは日常茶飯事で、それが怖くて幽体離脱の経験もした。
ある夏の夜、この恐怖と苦しさから逃れたいと思った途端、身体がふわりと浮き、天井近くまで上がっていった。下には私自身の身体がベッドに寝ており、その上に濃いグレーの靄のようなものが2〜3体、覆い被さっていた。
怖くなって身を翻し、閉まっていたドアをすり抜け、リビングの方までふわふわと飛んでいるように行くと窓が少し開いていた。
うちはマンションの4階だったのだが、そのまま窓から身を乗り出し空中へと飛び出した。
以前から空を自由に飛んでみたいな、と思っていた私は少し楽しくなってそのまま空中散歩。
電柱の真上ってこうなんだ、と鳥のように座ったり、上から道路の車の行き来を眺めたりしていた。
しばらくして戻らなきゃ、と思った途端、意識がなくなり気がつけば身体に戻っていた。
上に覆い被さっていた靄もなくなっていた。
そんなことが数回起き、流石に私ものんきにはしていられないと、色々な文献や書物で調べ始めた。
その時、日本ではかなり有名な霊媒師さんが、あまり幽体離脱を重ねると自分の意思で身体に戻れなくなる危険性がある、と言っていたので極力止めるようにしていた。
問題はその引き金となったグレーの靄である。
霊媒師さんによると低級霊や浮遊霊の可能性が高いとのこと。生まれつき霊感体質の私に頼ってきてしまうようだ。
霊感体質の人は他の人より「感受性のチャンネル」が多く、霊体とチャンネルが合ってしまうと付いてきてしまうそうだ。
そこで、チャンネルの閉じ方や1人でもできる簡単なお祓いを学んだ。また、全ての悪いことを霊のせいにしてはいけないとも教えられた。
大抵の彷徨っている霊は人に悪いことをしようとしているのではなく、逆に助けられたいと思っている方が多いと言われた。それに私には強い背後霊もいて、そういった霊達から守ってくれているそうだ。
そういったことを聞いて、少し安心したが、他にも問題があり、感情が異常に高ぶると(特に怒り)触れただけでお皿や電球が粉々に割れてしまうこともあり、感情のコントロールも必要となった。
霊媒師になって、そういう霊達を助けるという道もあったのだが、30代に入ってから今までの経験などから急に感受性が研ぎ澄まされることになり、断念した。
疲れて会社からのいつもの帰り道、いきなり肩に重圧を感じ、身体全体が重くなった。
それまでなるべく「チャンネル」は閉じているようにはしていたので、あまり気にせず一人暮らしの部屋へと帰った。
夜ご飯を軽く済ませ、12時過ぎにやっと寝たのだが、寝付きがあまり良くなく、見ていた夢は思い出せないが、眠りが浅く、かなりうなされたのは覚えている。
重い頭で朝を迎え、いつものようにシャワーを浴びようとしたら、腕や手首、足首に赤いアザがいくつも着いていた。
寝苦しくてどこかにぶつけてしまったのだろうかと思い、痛くもなかったのでその日は体調も優れなかったが、気にしないで過ごした。が、寝苦しい夜は2〜3日続き、アザも段々濃くなり痛みも増していった。
体調も悪化し、最後にはその無数のアザがくっきりと指のになっていた。
これは…と思い以前、霊媒師さんに教えて貰った対処法を施し、ベッドの周りに盛り塩を置き、完全に「チャンネル」をシャットアウトした。
今までの体験では身体に危害を加えられる事はなかったので、これは本当に怖かった。
その夜は寝られなかったが、対処法と塩が効いたのか、次の日からそのような事態には至らなかった。
これでハッキリと霊体が見えていたら多分、自分自身が壊れてしまうだろうと感じ、その日を境に一切の余計な「チャンネル」は閉じる様にしている。
今ではそのような体験はかなり減ったが、気を抜くと浮遊霊が頼ってきたり、道端に事故で死んでいる小動物を見かけると付いてきてしまったりするので、情をかけないようにしている。
また、霊的スポットやここはヤバそう、と思った場所には一切近づいていない。が、呪いが掛けられたような物が不思議と近くにきてしまうので、霊感体質の人はそれなりに大変なのだということも知って欲しい。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)