怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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未来が見える友人

僕は時々デジャブを見る。夢で見たことがある風景で、いつも気づくのはその場所に行ってから気付く。

 

子供のころは家族旅行をしている時、初めて場所で奇妙なことを言っていたらしい。来たことがない美術館で、いきなり母親に


「お母さんあっちに月の絵があるから見てきてもいい?」


と口走るそうだ。母親はなぜその絵があると知っているのか不思議だったらしいが、僕は知っていた。

 

夢を見た時は、一切認識していない。その場所の特定の位置に行った時だけ気付く。

 

子供のことはデジャブを見ることが多かったが、成長していくにつれ、回数は減っていった。

 

旅行で友人たちと5人で山登りすることになった。

 

リーダーだった子の提案で、3時間ほど離れた山に車で向かい2泊3日でキャンプを兼ねて楽しむ計画だった。

 

いつもは4人グループだったが、あまり僕たちのグループと親しくなかったが、健司(仮)と言う子が一緒に行きたいと言い出し皆も了承した。

 

その子はあまりクラスでも目立たないが無口だったが、身体は大きく、鍛えていた。

 

春休みになり計画通り山登りすることになった。

 

 

春先でまだ寒いこともあり、リュックに防寒着などもしっかり準備して出かけた。

 

現地に向かう車の中でワイワイ話しながら楽しんでいた。

 

車中でふと健司の方に目を向けると、なぜか僕の方を見ていた。目が合ったので僕から彼に声をかけてみた。


「健司はなんで参加する気になったの?」


そう尋ねると、しばらく考えた後


「昼休みに〇〇達が楽しそうに計画を話してたから、一緒に行きたくなっただけだよ」


いかにもらしい返事が返ってきた。

 

その後もいくつかの質問をしたが、ありきたりな返事が多かった。ひとつ気になったのは、


「昔ボーイスカウトをしていたし、〇〇(僕)の助けになると思うから…」


その言葉が僕には引っかかった。

 

”僕の助け”ではなく”僕たち”だろと思いつつ、車は目的地に向かって行った。

 

初日は山のそばの安い宿に泊まることになっていたので5人で雑魚寝して、翌朝から山登りを始めることとなった。

 

休憩しながらゆっくり登っても、5時間ほどで山頂まで行けそうなので朝6時に出発し、遅くても昼までには山頂に着く予定だ。

 

下りるときはもっと早いだろうから夕方には戻ってこられる。

 

宿でみんなで泊まっていると修学旅行のような気分になり結局0時まで騒いでしまった。

 

健司は積極的に会話するわけでもなく、みんなの会話に合わせて笑っていた。

 

眠い目をこすりながら5時に起床し、5時半に宿をチェックアウトした。

 

その時、宿の女将から「こちら準備しておきました」と言い一人ずつおにぎりを手渡された。

 

僕はフロントでアルミホイルに包まれたおにぎりを見て、”デジャブ”だと感じ一瞬固まった。

 

昼ご飯を考えていなかった僕たちが女将にお礼を言うと「あちら様からお代は頂いておりますので」女将は健司を見て言った。

 

山のふもとに行く車の中で僕は健司にお礼を言った。

 

彼は大したことじゃないと笑いながらつぶやいた。

 

山に登る直前に健司が水を買おうというのでみんなで買った。

 

ボーイスカウトの経験があり、おにぎりや水分補給を考えている健司が頼もしく見えた。

 

君に助けになると昨日彼が言った言葉に納得した。

 

実際山に登り始めて3時間もすると汗だくで疲労がたまっていった。

 

4時間半で山頂にたどり着いたとき、みんな疲れ切っていた。健司を除いて。

 

山頂の岩に腰掛けおにぎりを食べ始めたが、空気もよく涼しいのでおいしく感じる。食べ終わった後、30分休憩したら下りようということになった。

 

せっかくなので景色を眺めようと岩の端まで行くと、木でできた手すりのようなものがあった。

 

そこに立ってみるとまたあの感覚が蘇った。

 

”ここに来たことがある”そう感じながら周りの山々を見渡していると、健司も隣に来て同じように景色を眺めていた。

 

疲れていた僕は手すりにつかまり、少し体重をかけた。

 

しばらくするとバキッという音とともに手すりが折れた。

 

前傾姿勢で体重をかけていたため、体が前のめりで崖から落ちる。

 

体が40度ほど傾いたとき、またあの感覚が来た。落ちる映像を過去に見ているのだ。

 

落ち始めて最後に見た映像は目の前に地面があった。

 

終わりだという予想はたった。

 

とてつもなくゆっくり体が落ちかけている最中に首が締まるような感覚があり、気が付くと信じられない力で持ち上げられていた。

 

隣にいた健司が僕の襟首をつかみ持ち上げて救ってくれていたらしい。

 

助かった僕は呼吸ができず、しばらく動けなかった。

 

見ていた友人たちも駆け寄ってきて大丈夫かと声をかけている。

 

彼らは口々に柵が壊れるなんて危ないな、などと言っている。

 

僕は救ってくれた健司に朦朧としながら感謝した。

 

しばらくして落ち着いた後、健司に改めてお礼を言うと


「〇〇の助けになると言っただろ」


そう言われたので彼に聞いてみた。


「もしかして健司もデジャブを見たの?」


彼は答えなかったが


「未来が変わったから〇〇がデジャブを見ることはもうないよ」

 

数年後、大人になってから新聞で健司の名前を見た。

 

地震が起きる直前に幼稚園の生徒を救ったと表彰されていた。

 

もしかすと彼には未来が見えているのかもしれない。

 

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