怪文庫

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石の力

私の実家には「小岩石」(仮)と呼ばれている石がありました。

 

父に聞いた話では、これは先祖代々山岸家に受け継がれているものらしく、大切にしないといけないとずっと言われてきました。

 

私には兄が二人いるのですが、長男は山岸家を継ぎ、次男がその石を継ぐらしいです。

 

私はそれを聞いたとき、長男が全部継げばいいのではと思いました。

 

山岸家(仮名)に代々受け継がれてきた石であれば、長男が山岸家を継ぐと一緒に持っていればいいのではないかと思ったのです。


確か中学生のときに父にそんな話をしたことがありました。山岸家と小岩石を継ぐ人が別々なことが私には奇妙でした。

 

気になって兄たちに聞いたことはありましたが、兄たちは特に何も知らないようだったし、それらを別々に継ぐことに対して私のように疑問を持ってはいませんでした。

 

文句はなさそうで、そういうもんだろうと言っていたのです。

 

気になった私は父に疑問をぶつけてみました。

 

ですが、父は今までにないくらいに歯切れが悪く、すぐに話をはぐらかされてしまったのです。

 

なんとなく、この話はしてはいけないことなのかと察することになり、そして長らくその話には触れなかったのです。

 

だけど後からこれほど後悔したことはなかったです。

 

 

私は兄達が大好きでした。一人だけ女兄弟だったこともあり、兄二人は私にはすごく優しかったし、だからすごく懐いていました。

 

どっちがどうとかではなく、二人とも大好きな兄でした。

 

ですが、ある時から急に二人が疎遠になったのです。

 

あんなに仲良くて、なんでも相談していた長男の下に次男が寄り付かなくなりました。

 

長男もなんだか次男にぎくしゃくしたような感じになり、見るからにおかしかったです。

 

それでも放っておけば自然と元通りの仲に戻ると信じて疑いませんでした。

 

だけど、それから長男も次男もあまり顔を合わせることがなくなりました。


二人が疎遠になってからも、私は長男とも次男とも変わらず親しくしていました。

 

二人に仲直りしてほしいと思うこともあったけど、どう仲を取り持とうとしても二人の関係は元に戻りませんでした。

 

兄たちに聞いたけど、喧嘩の原因すらはぐらかして教えてくれないのです。


そんなある日に突然次男が自殺しました。

 

私の頭は真っ白になりました。

 

本当に突然のことで、どうしてこうなってしまったのかと棺の中で血の気を失った次男を見て涙が出ました。

 

私も母もまさかの兄の訃報に涙が止まらなかったけど、父と長男は違いました。

 

次男は家を出ていた為、直接の原因は家族にはないと思いますが、父と長男は本当に落ち着いていて、少しも涙を見せなかったのです。

 

父や長男と話をしたけど、私とは違って次男の死に動揺はなかったです。

 

まるで死期が分かっていたかのように、落ち着きはらっていました。

 

なんでこんなに落ち着いていられるのかと責めたいくらいに何事もなかったかのようでした。


私はこれを見て、あまりの冷たさに二人のことが怖くなりました。

 

次男の死を母と私だけが悲しんでいるように私には見えたのです。

 

それで葬儀期間中ずっと二人の様子を伺っていたのですが、そのおかげで二人が部屋でこっそり密会をしているのに遭遇しました。

 

部屋で父と長男はいつしかの小岩石の話をしていました。

 

最初は何の話だか分からなかったけど、どうやら次男に受け継がれた小岩石を死んだ次男から回収したという話のようでした。

 

父と兄はなぜか喜んでおり、「これで山岸家は安泰だ」と言っていたのです。

 

確かに聞きました。

 

次男が死んだことよりも喜びのほうが大きく見えた二人が怖くなりました。

 

私は身内の話をしているとは思えない二人の会話を聞いて、ぞくぞくするような悪寒を感じました。

 

 

それから葬儀が終わり、私は次男の死がもしかしたら父と兄の手によるものじゃないかと気になり始めました。

 

自分の肉親にそんな鬼のような人がいるとは思いたくなかったけど、もしかしたら二人が何らかの理由で次男をひっそりと殺したのかもしれないと疑ったのです。

 

それくらいに葬儀の日の会話が物騒でおかしかったのです。

 

そして私はそれを調べると同じく、山岸家に代々伝わる「小岩石」についても調べるようになりました。

 

結果、小岩石の情報は見つかりませんでしたが、うちの家系のおかしなところを見つけたのです。

 

それは先祖の中に若い内に亡くなっている人が多数いることでした。年齢は大体20代~30代くらいで、その間に亡くなっていました。次男と同じくらいの若さで命を落としているのです。

 

しかもそのほとんどが次男や三男でした。長男はすごく長生きをしている人が多かったです。

 

父も長男で、父の兄弟も若くして亡くなっていました。

 

私はそれを知って、小岩石の言い伝え?のことを思い出したのです。そういえば長男ではなく、なぜか次男に受け継がれた小岩石はずっと次男が肌身離さず持ち歩いていました。

 

なんで持ち歩くのかと聞いたら、父に言われたからと確か次男は言っていたと思います。

 

私は調べている内に、次男の死が小岩石に関連しているのではと疑い始めたのです。


ただ父と長男に真正面から直接聞く勇気は持てませんでした。

 

二人は小岩石に大きな執着を見せているように見えたからです。

 

母にいうと父に知られる可能性が高いので、母に相談することもできませんでした。

 

どうしたらいいのかと朝から晩まで考えて、私は曰くありそうな小岩石を一旦隠すことにしたのです。

 

私はこっそりと父の書斎から石を盗んで、屋根裏部屋に隠しました。

 

その日は眠りが浅くてなかなか寝付けなかったです。


屋根裏部屋に小岩石を隠した翌日、すぐに父と兄は様子がおかしくなりました。

 

もう血眼になってその石を探しているのです。

 

その様子があまりに常軌を逸しているように見えて、私はぞっとしました。

 

兄に小岩石のことを聞かれたけど、私は知らないと嘘をついてその石のありかを教えることはなかったです。

 

この半年後に兄の会社の経営状況が悪くなって、あっという間に会社が傾きました。時を同じくして父も得意だったはずの株で大損し、次第に父と長男、つまり山岸家が衰退していきました。


衰退していく最中に私は一度だけ父に、小岩石のせいで次男は死んだのかと聞いたことがありました。

 

父は何も答えませんでしたが、「違う」と否定しなかったことが答えだと思っています。

 

小岩石は随分前に屋根裏部屋から持ち出して、地元の川に投げ捨てました。

 

うちが傾いてきて怖くなって一度捨てた同じ場所を探したのですが、二度と見つけることはできませんでした。

 

今はもう捨てて良かったと思っていますが、ただ一つあの石が他の人の手に渡っていないことを祈ります。

 

確証はありませんが、家族の命を犠牲にして家を繁栄させる石なんてこの世にあってはいけないものだと思います。

 

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