怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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憑かれた元カノ

前に付き合っていた女性がいました。マッチングアプリで出会ったその人は、いつもニコニコ笑っていて穏やかな性格の人でした。

 

ある日のデート時、目的地である温泉施設に向かう車内でオカルト系の話題になり、元カノが自身に霊感があることを告白してきます。


部屋の隅に子供が座っていたり、怖い夢を頻繁に見て、忠告を受けることも多々あったそうです。


とある武将を先祖に持ち、父親も霊感があって、父子そろってよく取り憑かれるとのことでした。

 

「家の近くに神社があるんだけど、あそこには行かないほうがいい。前にペットの散歩で行ったら憑かれてしまったから」

 

お祓いをしなければならないほどの強力な霊がいるそうで、僕の好奇心がくすぐられてしまったのです。

 

デート後、こっそりと僕はその神社に向かいました。


住宅街にひっそりと建っていて近くに公民館もあるので、怖い雰囲気はまるで感じられません。

 

公民館で集まりがあるようで、何人かが話しています。なんなら拝殿の前に車が停められていました。拍子抜けした僕はすぐに帰ります。

 

次の日から相手からラインが来る頻度が減り始めました。相手のほうからいつも朝の挨拶や夜にラインをくれていたのにです。


「できればラインは毎日やり取りしたいけど、〇〇さん(僕のこと)が忙しいなら大丈夫」と前に言っていたので、さらに追いラインをするのも嫌なため、こちらからラインを送っていない状態です。

 

そんなある日、元カノからラインが届きました。

 

「〇〇さん、連絡くれないんですね。将来が不安になりました。別れましょう」

 

突然のことでしたが冷静にメッセージを返します。

 

「なにかあった?」

 

「なにもないです。前に本職を辞めて副業だけで食べていきたいと言っていたので不安になりました」

 

たしかにデート中にそんなことを言いました。しかし本気で言っていたわけではないです。

 

「まだ仕事辞めてないよ?」

 

「〇〇さん、あの神社いきました?」

 

突然の問いにゾッとし、咄嗟に嘘をついてしまいます。

 

「行ってないよ」

 

「忘れ物したってラインを送ったあと、すぐに戻ってこれたのは何故ですか?近くにいたんですよね?」

 

温泉施設に行く際にタオルを持参して行ったのですが、タオルが入ったバッグを元カノが忘れたとラインが入ったので、それを届けるために戻っていました。


神社の近くにコンビニがあるので、嘘を重ねてしまいます。

 

「コンビニに行ってたんだよ」

 

「じゃあなんで私にあの神社の霊が憑いたんですか?」

 

血の気が引きます。


お祓いにも行ったそうで、それで連絡が来なかったんだと理解できました。


そこから元カノの様子が急変していきます。

 

 

「私の飼っている犬があなたに吠えたのは憑いていた霊に吠えていたんだ」

 

「神社の話を聞く前から吠えられてたよ?」

 

「その前に行ったんでしょ」

 

「行ってないよ。大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないのはあんたでしょ?」

 

普段の元カノとは違い、本当に取り憑かれたかのように別人になっていました。


元カノが霊感があるという話をした際に「取り憑かれると普段の私とは真逆になってしまうそうです」と聞いていたので、まだ憑かれているんじゃないのかと聞くと、様子が一層おかしくなっていきます。

 

「助けて、私はここにいない。私はここにいないよ」

 

元カノから電話が掛かってきました。


恐る恐る応答して耳を当てると、元カノが泣いているのが分かります。

 

「いまどこ?」

 

「玄関の外にいる...あの神社に行こうとしてる...」

 

21時を過ぎていたので、当然真っ暗です。僕はなだめるような口調で話しかけます。

 

「落ち着いて。絶対に行かないで」

 

「助けて...私おかしくなってる...」

 

そう言うと激しく泣き叫びはじめます。なにが起こっているのか分からず、ただ聞いているしかない。

 

音が割れるほどの絶叫。発作のような息遣いが、獣を彷彿とさせました。


普段の元カノとは思えないほどの取り乱し方に、どのような言葉を掛ければいいか分からない。

 

不思議なのが、元カノの叫び声が子どものような声に感じる瞬間が度々あったことです。

 

すると元カノとは違う誰かの声が聞こえてきました。何度か会ったことのある元カノの母親の声でした。


落ち着かせようとなだめている様子が分かります。

 

「もしもし?」

 

元カノの母親が、僕に声を掛けてくれたので答えようとすると、通話が切れてしまいました。


どうすればいいか分からないでいると、数分後に元カノからラインが届きました。

 

「私はもう大丈夫です。お騒がせしました」

 

「よかった」

 

「でも今度は父に取り憑いて、父が神社に行ってしまいました」

 

次の日の朝、元カノにラインを送ります。


元カノの父親は無事に帰ってきて、ぐっすり寝ているとの返信が来ました。

 

「別れましょう。〇〇さんをこれ以上は巻き込みたくないです。本当は〇〇さんもお祓いに行かなくちゃいけないんですよ」

 

そして僕は別れました。


本当に取り憑かれていたのか、それとも別れたくて大芝居を打ったのか、今となっては分かりません。

 

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