怪文庫

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初めての心霊体験

私は中学生の頃から不思議なものを見る事が多くなった。

 

見えるものはいつも視界の端で、黒シルエットのものが大半を占めている。

 

時折、現実の人間と遜色のない状態で見る事もある。しかし、私はこの事を特定の友人以外に言うことは無かった。

 

当時、私は視界の端にチラチラと何かが映る状態は「飛蚊症」というものなのであり、治療法もあまりないものだと思っていたからだ。

 

話していた友人というのも霊感少女と呼ばれるものであり、彼女が見た影や聞こえた声などを喋っていた折に触れたに過ぎなかった。

 

私は当時、都市伝説や怪談話に始まり、陰謀論の様なオカルトめいたものに興味を持っており、彼女は数少ないその手についての話を出来る相手だった。

 

彼女曰く、見えたものはその時点ではこちらが"それ"に気付いている事は分からないのだという。

 

例えばそれを凝視したり何かしらの反応を示した時に相手は我々が"気付いている"という事に気付いて何かしらの行動をとってくるらしい。

 

だから彼女は私に何かが見えても無視するように言った。

 

何も反応を示さなければ相手もこちらを見えていないものとして扱い、何かをしてくることは無いらしい。

 

その忠告もあって、私は何かが見えたとしても無反応を貫き通していた。

 

尤も、その友人は虫が苦手だったため視界の端で何かが通り過ぎると身体を大いにビクつかせていたが……。


これから話すのはそんな私が初めて"そういったもの"を見た時の話だ。

 

 

その日は教師の研修か何かで部活が休みになり早く家に帰る事が出来る様になった。

 

しとしとと雨が降りつつも空の雲は薄く全体的に明るい。私は傘を差して家路を1人でのんびりと歩いていた。

 

子供の頃よくやるとは思う、私はその時、道路の歩道と車道を区別するための縁石の上で一本橋を渡る様に歩いていた。今思えば傘を差した状態で危なっかしい行動だと思うが車通りも少ない道路だったので退屈だったのだろう。


「ん?」


ふと声を漏らした。

 

雨を防ぐ為に少し前のめりになった状態では傘が視界の大半を占めるが、それでも足元だけは見える。その足元にシューズが見えたのだ。

 

小学生御用達、カーブで差をつけろのキャッチフレーズでおなじみ瞬○の様な、黒と赤の男児向けシューズである。

 

私から見て左、即ち男児の右足部分がこちらに向いている見えたのだ。


私は咄嗟に縁石を譲った。

 

こちらは中学生、相手は推定小学生だ、譲るべきはこちら側であろう。

 

縁石に昇って歩くなんて幼稚な行為を小学生相手に見られた、という恥ずかしさもあった。


「あれ?」


顔を上げ、その男の子を正視しようとした時、そこに男の子はいなかった。

 

振り向き、首を動かして周囲を見ても男児どころか人の気配なんか欠片も無かった。

 

私のいた道は両側が法面になっており、反対側の歩道にもこちら側の歩道にも横道はない。電柱に隠れようとしたとて、街灯用の細いものしか無いのだから小学生すら隠れるのは厳しいだろう。

 

つまり、人が隠れられるような場所は何一つないのだ。

 

その瞬間に、私は言いようのない鳥肌に襲われた。

 

胃や腸辺りが冷える様な、背中に冷水を浴びせられたような、とにかく寒いのだ。

 

そして「あれは人じゃないかもしれない」と思い至った瞬間、涙が込み上げそうになった。


(やばいやばいやばいやばい、なにが?わからない、でもやばい、なにがやばい?なにかがやばい!)


思考が「やばい」だけで占められ、自分でも由来の分からない恐怖が襲いかかった。

 

ただひたすらに「やばい」と「どうして?」を繰り返しながら20分ほど、もしかしたらもっと短かったのかもしれない、私はその場に立ち尽くした。

 

その間、人も車も来なかった。

 

"向こう"が飽きたのか、たまたまなのか分からないがしばらくして車が真横を通り去った時、私はその思考の渦からふっと逃れる事が出来た。

 

何が何やら分からなかったがその日、私はそのまま家に帰った。


翌日、私は登校して一番に同級生に話しかけられた。

 

それが霊感少女の彼女である。

 

彼女は「小学生くらいの男の子」とボソリと呟いた。

 

私は驚きどういう事かと聞けば、彼女は私が取り憑かれていると言う。

 

反応をし、道を譲るという行動を取ってしまったが故に興味を持たれ憑かれたらしい。

 

ただ、"彼"は危害を加えるつもりはなく興味で取り憑いているのだからそのうちどこかに行くだろうとの事だった。

 

それならあの恐怖はなんだったのかと聞けば、そういうものに出会った事がないにも関わらずいきなり取り憑かれたものだから身体が拒否反応を起こしたのだろう、まともな大人ならば拒否された事が分かればその時点で取り憑くのを辞めようともするがこの場合は子供だったので無理やり突破したのだろうという見解だった。


「これから、見るようになるかもね」


彼女に言われた通り、そこからというものの私は様々なものを現在に至るまで見る事になる。

 

とはいえ、私は現実主義であるので飛蚊症や見間違え、幻覚などで自分の見えたものを否定し続ける日々だ。

 

ただ、あの時の恐怖の説明をする事は出来ない。

 

そして、これを書いている間中止まらない鳥肌や寒気についても。

 

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