10年くらい前の話である。
とある日、私は地方に好きなバンドのライブのために遠征に来ていた。
ライブが終わり、友人達何人かとご飯を食べて、お酒を飲んで、楽しくわいわい騒いで気がつけば深夜3時を回っていた。
地方を回るのでずっと金欠だった私はその日寝泊まりする場所を確保していなかったので、近くのネットカフェに電話をして空席があるか確認したところ、どこも空いていなかった。
どうやら、この近くで色々なコンサートやライブがあったらしい、と、友達の1人が言う。どうしようかと、じゃらんを確認するとポイントが2000貯まっていたので、ホテルを探していたのだが、近くにはめぼしい場所はやはりなく。暫くの間調べていると、少し歩くが丁度一泊2000円の安いホテルが見つかったので今夜はそこに泊まることにした。
その後友人とは解散となり、友人の1人がその近くに家があるというので、タクシーで近くまで送ってもらった。
目の前まで頼みたかったのだが、運転手がこの先はわからない、道が細いから、とか何か言っていたと思う。
外観からして古い建物で怖いものや霊などに一切恐怖はなかったので、平気でした。
ガラス製の扉を押し開けると、がらんとした受付。
真っ赤な絨毯。しかし人は誰もおらず、ポイントで支払いが済んでいたからかカウンターにら一枚の紙。
内容を見るに、どうやら紙に顧客情報を書いて箱に入れるらしい。
変わっているなと思いながらも、紙に名前や住所、年齢などを書いて箱に入れた。
すると、そのタイミングで「こちらです」と声をかけられた。
客室が続く廊下の奥から1人の女性が来たのだ。真っ黒い髪で顔はよく見えなかった。さすがにびっくりした。
そしてそのまま彼女は部屋に案内してくれた。
変なホテルだな、と思いはしましたが大人しく着いていくと非常階段の扉を開けた先にある部屋で、ああ、曰く付きかもしれない、と私は悟った。
彼女に促されて部屋に入ると女性はいなくなった。
これでやっと休める、と思ったのも束の間。鍵を差し込んで付くタイプの電気だったのだが、鍵を刺す前から電気が付いたり消えたりした。
驚く間もなく色々と察したが、とりあえず鍵を刺して、ベッドに腰をおろしてキャリーを開いて荷物の整理をし始める。
すると、テレビが勝手についた。
ずっと「オンリョウ」の文字が映り、音がでかくなる。
恐怖よりもうるさい、という気持ちが勝ってリモコンを手にしてテレビを消す。
荷物を片付けている最中、このやりとりが何回もあった。
目的はなんなのか、私はどうなるのか、なんて事も頭によぎったが、酒が入っていた事やその日朝からの移動で疲れていたのもあり、普段から怖さを感じないタイプだったのも相まって恐怖心よりも疲れたから大人しく休ませてくれ、といった気持ちのほうが大きかった。
溜め息が何度も出た。
荷物を片付けてから、折角泊まったのだからとシャワーを浴びにいく。
ここでも何者かに妨害をされた。
まず、電気がまたついたり消えたりする。これはまだいい、どうせ頭を洗うのに目は瞑るから。しかし問題は、シャワーのお湯が時々水になる事。
この頃、季節は秋で少し肌寒かった。この行為に、これまでは何とも、いや、煩わしくは思っていたが怒るまでの感情はなかったのだが、初めて声をあげてしまった。
「やめて!早く寝たいの!」と。
するとその気持ちが届いたのかはわからないが、お湯は適温に、電気も消えることはなくシャワーを無事に浴びる事ができた。
浴室から出て、髪の毛を乾かしながらふと、友人に連絡出来ないかと携帯を手に取る。
この頃はまだガラケーが主流でLINEなんてものはなかった。mixiの呟きやコメントの方がメールでの連絡より早くレスポンスが出来るので、それらを主に使っていた。
その日も同じようにmixiを開こうとしたが、圏外になっていた。
部屋の中で携帯を振り回したり、アンテナを立てたりしたが無駄に終わった。
その時に少しだけ、「私は本当にこのホテルから明日、出られるのだろうか」と、怖くなって、疲れもあって寝てしまった。
意識が遠のく中で、テレビがついたり消えたりしていた気がした。
そして、大きなテレビの音で目が覚める。
時刻は朝6時。
あまり眠れなかったが7時発のバスで、また大移動があったのでこの時ばかりはテレビに起こしてもらえたことに感謝した。
身支度を整えて、部屋を後にした。
フロントには相変わらず誰もいなく、鍵はこちらへ、と書いてある箱があったのでそこに入れて駆け足でホテルを後にした。
そこから、友人との待ち合わせまでの間に昨夜の出来事が頭をぐるぐると回っていて、早く友人に会いたくてたまらなかった。
そして、無事待ち合わせをしていた駅に着く。その頃には周りに自分以外の人間もいたので、色々とホッとしたのを覚えている。
友人に会うなり、クマがひどいと笑われたのだが昨日早く帰っていた彼女は自分がどこに泊まったかなど知らなかったので、全部新幹線の中で道中話すことにした。
全てを話し終えると、彼女がこう言った。「ネットで予約したんだよね?どこのホテル?レビューとか見てみようよ」と。
そういえば、予約した時にしか見ていなかったし、と思い私はログインしてそのホテルを予約したじゃらんのページを開く。
しかし、そこで待っていたのは驚きの事実だった。
まず、ポイントが減っていなかったのだ。
まだ引かれていないのか…?と思いながら、宿泊履歴を見る。ここを見ると、過去泊まった宿が全部みれるのだ。
しかし、そこに昨晩どこかに宿泊した形跡がなかった。
おかしい。不思議に思い、泊まったホテル周辺にどんなホテルがあるかも見た。
しかし、見当たらない。近くに大きな公園があるのが目印だったのだが、その近辺にホテルすらないのだ。
私の様子に不思議に思った友人にもそのことを伝えて、2人で探したのだが結局見つからなかった。
また、タクシーで送ってくれた友人も、後日事情を話すと「タクシーの運転手が、この辺で降ろしてどこに泊まるんだろう」と不思議がっていたこと、それから彼もあの辺りにホテルなんてないと思っていたことを教えてくれた。
私はどこに泊まったのか。10年以上経った今でも、真相はわからない。
著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)

