これは俺が大学生の時、深夜のコンビニでバイトしてた頃の話だ。
そのコンビニは県道沿いにあって、夜中は本当に客が少ない。トラックの運ちゃんが缶コーヒーを買いに来るくらいで、午前2時過ぎなんて1時間に1人来るかどうかって感じだった。
問題の夜は11月の平日で、いつものように俺1人でレジに立ってた。あれは確か午前3時頃だったと思う。自動ドアが開いて、30代くらいのサラリーマン風の男が入ってきた。
紺のスーツを着て、少し疲れた感じの普通の人だった。
その男は店内をゆっくり回って、おにぎり一個とお茶のペットボトルを持ってレジに来た。特に変わったところはない。会計も普通に済んで、ありがとうございましたと言って帰っていった。
で、30分後。また同じ男がやってきた。
最初は「あ、忘れ物でもしたのかな」と思ったんだが、男は何も言わずに店内を回り始める。そして同じようにおにぎり1個とお茶を持ってレジに来た。さっきと全く同じ商品だ。
「あの、さっきも……」っと言いかけると、男はきょとんとした顔で「え?…」と答えた。「あ、ごめんなさい…」と言い濁す。
別人の空似かと思ったが、顔も服装も完全に一緒だった。
でも反応が初めてだと言うし、深夜だから俺の見間違いかもしれないと思って、普通に会計を済ませた。
さらに30分後、また同じ男が来た。
今度は確実に同一人物だった。
歩き方、仕草、商品を選ぶ順番まで全部一緒。おにぎりを取る時、少し迷うような素振りを見せるのも前回と同じだった。
「すみません、さっきから何度もいらっしゃってますが...」と言うと、男はまたきょとんとして「いえ、今日初めて来ました」と答える。
そして同じ商品を買って帰っていく。
これはおかしいと思って、次に来た時は注意深く観察することにした。
30分後、予想通り男がやってきた。今度は男の動きを細かくチェックした。店に入ってくる時の足音、商品棚での動き、レジでの仕草、全部記憶した。そして「これで4回目ですよね?」と聞いてみた。
男は困ったような顔をして「4回目って何のことですか?私、今夜初めてここに来たんですが」と言う。嘘をついてる感じは全くない。本気で初めてだと思ってるようだった。
その時、ふと男の車を見てみようと思った。
男が店を出ると、駐車場に止まってる車に向かう。
薄暗くてナンバーは見えなかったが、白いセダンだった。エンジンをかけて県道を西の方向に走っていく。
で、30分後にまた来た時、同じ白いセダンで同じ駐車位置に止めてるんだが、なぜかナンバープレートの数字が違って見えた。
暗くてはっきりしなかったが、確か最初は「...32」で終わってたのが「...58」になってたような気がする。でも自信はない。
その後も30分おきに同じ男が来続けた。
計7回。毎回同じ商品を買って、毎回初めてだと言い張る。
7回目の時、俺は試しに「おにぎりは鮭がお勧めですよ」と言ってみた。
男はいつもツナマヨを取ってたからだ。
すると男は「あ、そうですか?」と言って鮭のおにぎりを取った。でも結局レジで「やっぱりツナマヨで」と交換した。
この一連の流れも、なぜか既視感があった。
8回目の時間になっても男は来なかった。
午前6時の交代時間まで、結局その男は現れなかった。
後日、昼間のシフトの先輩にこの話をしたら「ああ、あの人ね」と言われた。
どうやら前にも同じような客がいたらしい。
ただし、先輩が体験したのは昼間で、同じおじいさんが1時間おきに来て、毎回同じ弁当を買っていったという。そのおじいさんも毎回初めてだと言い張ってたそうだ。
「でも3回目くらいで来なくなったよ」と先輩は言った。
「深夜で7回も来たのは珍しいね。普通は店員が気づいた瞬間に来なくなるんだ」
どうやらこの現象には、店員側が認識するかどうかが関係していたらしい。先輩の話では、店員が「またこの人だ」と明確に意識した瞬間、その客は二度と現れなくなるのだという。
それからしばらくして、別の深夜バイトの後輩からも似たような話を聞いた。
今度は女子高生が同じパターンで現れたという。やはり同じ商品を買って、毎回初めてだと主張していたらしい。
そのコンビニは半年後に閉店した。客が少なすぎるのが理由だったが、俺はなんとなく他にも理由があるような気がしてた。
今でも時々あの男のことを思い出す。あれは一体何だったんだろう。夢遊病の一種なのか、それとも俺が疲れすぎて幻覚を見てたのか。
でも商品は確実に売れてたし、レジの記録にも残ってた。
一つだけ気になるのは、男が毎回同じ時刻に来てたことだ。きっかり30分間隔で。まるで何かのプログラムに従ってるみたいに。
そして最後の最後に、男が7回目に店を出る時、振り返って俺を見た気がする。
その時の表情が、なんというか、哀しそうだった。まるで「気づいてくれてありがとう」と言ってるみたいに。
あれから5年経つが、なんだか不気味で、深夜のコンビニには二度と近づいていない。
著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)
