これは、俺が大学1年のときに住んでたアパートで起きた話です。
いまだにあれがなんだったのか説明できないし、思い出すとゾワっとするから、ずっと誰にも話さずにいた。でも、ここに書くことで少し気が楽になるかもしれないと思って書いてます。
当時、大学に進学してやっとの一人暮らしで私鉄沿線にある築30年のボロッボロの木造アパートに住んでたんです。
大学からは自転車で15分くらい。でも駅も近くて、家賃が3万8千円。破格の値段だったんで、即決で契約しました。
部屋は6畳ワンルームで、トイレと風呂は別。洗濯機は外置きで、正直キレイではなかったけど、貧乏学生には十分な物件でした。
ただ、最初からちょっとだけ気になることがありました。
それは、玄関の横小窓に貼られていた白い紙です。
A4サイズくらいの白い紙が、四隅をガムテープで固定されて、ベタッと貼られてたんです。しかも、窓は昔のアパート特有のは濁ってるタイプの窓で何か書いていることは分かるけど、何が書かれているかは分からない。
最初は「日除けか、前の住人のメモか何かかな?」くらいに思って、特に気にせずにそのままにしてました。
管理会社に聞こうかと思ったけど、細かいことを気にするタイプでもなかったので、面倒でスルーしたんですよね。
それから数ヶ月、特に変わったこともなく、そのアパートで普通に暮らしていました。
バイトして、授業行って、友達と麻雀して、寝るだけの毎日。特に霊感があるとか、そういうタイプでもありません。
でも、その白い紙について、ある夜に事件が起きたんです。
大学の友人がうちに泊まりに来た日でした。
そいつは地元が遠かったんで、終電を逃すとよく俺の家に泊まりに来てたんです。
その日も夜中までダラダラゲームして、夜食のカップラーメンを食べ終わってから、急にそいつが言ったんです。
「なあ、お前んちの窓、なんか貼ってね?」
「あー、あれね。最初から貼ってあってさ。なんか剥がすの怖いじゃん?」
そしたら、そいつがニヤつきながら「大丈夫だってw見てみようぜw」って言ってきて、俺も軽いノリで「まあ、ちょっとだけな」と、なぜか懐中電灯片手に二人で窓の前に行ったんです。
で、右上のガムテープをペリッと剥がして、紙の端をそーっとめくったんです。
すると、その瞬間。
「ギィ……」って音が、壁の中から聞こえた。
俺と友人は顔を見合わせて、「今の音、どこからだ?」って言い合ってたんですが、確実に窓の外じゃない。内側、というか、壁の奥からだったんです。
小窓の横の壁。絶対にガムテープの音じゃない重く低い音。
それがただの物音じゃないと、直感で分かりました。
音が“こっちを見てる”感じというか、言葉にできない嫌な気配だけが残ってた。
俺は「やべえ、とりあえず戻すわ」と言って、紙を貼り直しました。
ガムテテープの粘着力が落ちてたから、テープの端を手で押さえて。
友人も少し顔が引きつってて、「なんかマジでやばいかもな……怖くなってきたわ」と言って、僕の自転車を使い、そそくさと帰っていきました。
俺はその夜、眠れませんでした。
ずっとスマホのライトつけたまま、壁の方を見てました。
特に何も起こらなかったけど、ずっと胸のあたりがザワザワして、寝返りも打てなかった。
それから何日かして、奇妙なことが増え始めた。
例えば、朝起きると、カーテンの隙間が微妙にずれていたり。玄関のチェーンが、かけたはずなのに外れていたり。部屋の空気がどこか重たくて、特に夕方になると、なんとも言えない視線を感じるようになって。
一番怖かったのは、ある日バイトから帰ってきて、部屋の鍵を開けたときのこと。
ドアの内側に、小さな手形がついてたんです。子供の手みたいに小さいのが、3つ。赤黒い汚れみたいな跡で。もちろん、俺は一人暮らしだし、子供やそんなに手の小さい友達を部屋に入れた覚えもない。
ぞっとして、その日は部屋に入らずにネカフェに泊まりました。
それをきっかけに、俺は引っ越しを決めました。バイトでお金を貯めて、数ヶ月後には別のアパートに移りました。
あの紙にはもう二度と触れなかった。
でも、引っ越す前日、最後に荷物をまとめてたとき、どうしても気になって。「もう関係ないし、ちょっとだけ…」と思って、あの紙をめくったんです。
そしたらそこには、墨でこう書いてありました。
「とじこめた」「はがすな」「戻せ」
それを見て、俺は無言で紙をそっと戻しました。震える手でガムテを貼り直して、二度と振り返らずに部屋を出ました。
ちなみに、その部屋は今もある。
最近、たまたま通りがかったときに見てみたら、まだあの窓に白い紙が貼られてました。
変色して、少し端がめくれてたけど、まだ誰かが住んでるみたいだった。
今でもときどき、夜に寝てると、「ギィ……」ってあの音を思い出す。
あれが幻聴なのか、実際に聞こえたのか分からないけど、ひとつだけ確信してる。
あの紙は、剥がしちゃいけないものだった。
著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)
