怪文庫

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不思議な知らせ

これはもう二十数年前の話で、私が中学生の頃のお話です。


私はクリスマスが発売日だった、とあるCDを予約しました。そのCDは4枚組で、限定品でした。


当時中学生だった私からすると、とても高価なものでした。


親からのお小遣いも決して多くはありませんでしたが、私には『へそくり』がありました。


それは、父方の祖母からのもらったものでした。


この年の夏に、私は入院をして膝の手術をしました。部活で膝を痛めたことがきっかけでした。


病院は自宅から少しばかり遠く、ちょうど祖母の家の近くでした。


祖母は毎日のように自転車で病院までお見舞いにきてくれ、そのたびに私にお金をくれたのです。


一日1000円ずつ。十日間の入院の中、ほとんど毎日来てくれていたように思います。


そんな訳で、私は1万円くらいの『へそくり』を手にしていたのです。


そのお金を、私は母親には言わずにそっとしまっておきました。


祖母がお見舞いに来てくれていることは母親に言っていましたが、何故だかお金のことは母親に言うことができなかったのです。


昨年に父方の祖父が亡くなっていることもあり、母親が祖母に気を遣っているのをわかっていたからです。


本当は、言った方がよかったのかもしれませんが、この『へそくり』のお陰で、私はCDを買うことができたのでした。


クリスマス前日のことです。友だちと遊んでから家に帰ると、私の宛名で小包が届いていました。

 

 

小包をよく見てみると、予約していたCDのタイトルが書かれています。


クリスマスに届くはずだったCDが届いていることを不思議に思い、私は母親に尋ねました。


「ここにある荷物、クリスマスに届くはずだったんだけど、もう届いたの?」


すると母親は言いました。


「宅配便のひとがね、日付指定だったけど早めに持ってきましたって言ってたよ」


当時は知りませんでしたが、これは「フライングゲット(通称フラゲ)」と言われているんですね。


私は宅配便の人が親切で持ってきてくれたのだと思ってとても嬉しかったのを未だに覚えています。


そんな訳で、発売日前日にCDを手に入れたことでうきうきしていた私は、自室へ戻ってCDを聞き始めました。


CDは全部で4枚組。1枚1枚取り出しては歌詞カードを眺め、私は手に入れられた喜びにうっとりとしていました。


1枚目のCDが終わり、2枚目のCDを再生し始めたときでした。


突然、歌詞が突然中断し、ジジ、ジジ、と不可思議な音を立て始めたのです。


私はCDを停止し、蓋を開けてCDに傷が入っていないか確認しました。もちろん新品のCDですから、傷なんてどこにも入っていませんでした。


私は不思議に思いながらもう一度再生しましたが、その時にはもうCDは不思議な音を立てることはありませんでした。


CDは残り2枚残っていましたが、家族に声を掛けられたこともあって、私はお風呂に入りました。


浴槽に浸かった瞬間のことです。さっき、CDを聞いていたときと同じ音が聞こえ始めました。


ジジ、ジジ、ジジ。ノイズのような音でした。

 

今度はCDを再生している訳ではないので、私は怖くなりました。慌てて風呂から出て、居間にいる母親に話しに行きましたが、母親はちょうど電話をしていました。


妙に真剣な顔で、相槌する声も硬いものでした。


電話が終わるのを待っていると、母親が私の方を向いて言いました。


「おばあちゃんがね、お風呂で溺れちゃって意識がないみたいなの。今から病院に行くよ」


……信じられない言葉でした。


祖父の三回忌を済ませたのが12月の上旬で、その時も祖母はとても元気でした。


とても、お風呂で溺れるような様子ではありませんでした。


父親と母親が車で向かいながら、話しているのが聞こえます。


「20時くらいに風呂に入ったらしい。溺れていることに気付いたのは21時頃だったらしいから、助かるかどうか…」


そんな話でした。


私はそのとき、はっとしました。


ついさっきの事です。CDを聞いていたときにノイズが聞こえたのは、20時30分頃。


二度目のノイズが聞こえたのは、21時頃。


……祖母が溺れたかもしれない時間と、祖母が溺れていることに気が付いた時間なのではないか、と思いました。

 

もしかしたら、祖母が私に助けてほしいと伝えようとしてくれていたのかもしれない。


どうして私なのかとも思いましたが、CDは祖母から貰った『へそくり』で手に入れたものということだけに、不思議な縁を感じました。


でも、家族の誰にもそのことを打ち明けることはできませんでした。

 

祖母の意識は戻ることなく、そのまま亡くなってしまいました。

 

家族や身内は、さみしがり屋だった祖父が連れて行ったんだね、と話していましたが、もし私があの不思議なノイズを家族に伝えていたら、もしかすると何か変わったのかも知れない、と思えて仕方ありません。


祖母の遺影を見る度に、後悔と、申し訳なさを未だに感じています。

 

あのときのCDは未だにとってありますが、もう一度あのノイズが走るかもしれないと思うと、再生することはできていません。

 

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