怪文庫

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人が狂う寮

私は全くオカルト話を信じない人間でしたが、ある体験を機に信じるようになりました。


一通り経験した出来事を、ここに記そうと思います。


九州から東京へ上京し、とある会社に入職した私。その会社に決めた理由の一つに、
「女子寮」の存在がありました。


都内だと、8畳1Kのような部屋でも、家賃は高くついてしまいます。会社の福利厚生で提供される寮は、「7畳1K、水道光熱費込みで2万5千円」でした。


「入居者が女性だけというのも、女性で一人暮らしの私としては安心だし、この料金で生活できるのは貯金もはかどりありがたい」と思い、寮にすむ事に。


前提に、中途採用の面接に行ったのです。

 

面接官から、「そういえば、もう家は決めた?」と言われ、「女子寮に入りたいと思っています」と返答すると、「え?ああ、あそこにするの?へー…」となんとも歯切れの悪い回答。

 

やや違和感を覚えました。そしてすぐになぜその面接官がそのような返答だったかがわかりました。


女子寮は実際に見てみると、ホームページで掲載されていた写真と比べると、なぜか「暗い」印象を受けました。

 

ベランダが無いからか、なんだか光がよく入ってこないような、不思議な違和感。


引っ越し作業を終え、シャワーを浴びた際にも違和感が。私が引っ越す前に掃除がなされていたはずですが、排水溝に黒い髪の毛がびっしりつまっていたのです。しかしその件は「うわー、掃除し忘れてるじゃん、汚いなあ」としか思いませんでした。


シャワーを浴びてリビングに戻るときのこと。

 

浴室は鍵をかけられるようになっていました。私は地震などの際にすぐに脱出できるよう、昔から鍵はかけないようにしていたのです。しかし、カギがかかっていました。

 

「疲れていたから、間違えてかけてしまったのかも?」と、あまり気に留めずその場を離れ、早く寝るためベッドに入ります。


しばらくして、枕を叩かれた感覚とともに、男性の低い声で「ウワっ・・・」とささやく声が聞こえました。

 

さすがに飛び起きてその場を確認しましたが、何も見えず。

 

 

翌日、職場に初出勤すると、「あなた女子寮に引っ越したって聞いたけど、色々大丈夫?」と声をかけられました。


その職員も、女子寮に住んでいたそうですが、不可解な経験をしてから恐ろしくてすぐに引っ越したとのことでした。

 

話を聞くと、経験した内容が全く同じでした。浴室のカギがかかり、枕を叩かれ、ウワっとささやかれたというのです。


さすがにこの時は「この女子寮は長くいないほうがいいかもしれない」と感じました。


昨日取り除いたはずの黒い髪がふたたび排水溝に詰まっており、気味悪さを感じつつも取り除き、シャワー後白いパジャマを取り出すと、黒いカビがびっしりと生えて居ました。

 

新しく買ったパジャマにです。

 

「カビ 心霊」で検索すると、霊のいる場所は黒いカビが生えやすい。と書いてありました。白いものが軒並み黒カビが生えるのです。


そのような怪奇現象に見舞われていた際、さらなる事件が起きました。

 

部屋全体に「カン、カン」とハンマーで何かを叩いているような音が夜中にするようになってしまったのです。

 

下の階で誰かが音を鳴らしているような、そんな音です。

 

すると、私の右隣の住人が、「カン、カン」が始まると、「ドン」っと下の階の人に向かって床を蹴るような音を立てるようになりました。


それが数日続いたころ、夜中の2時に、下の階の人が隣の部屋の人を訪ね「いつも床をドンドン蹴るの、やめてくれない?うるさいんですけど!」と怒鳴りにやってきました。


右隣の部屋の人も負けずに「あなたこそうるさいんですけど、カンカンなにやってるの」と返しました。

 

下の階の女性は「肉を叩いているだけよ」と言ったそうです。


いったい、夜中の2時に、何の肉を叩いているのか…気味が悪くてしょうがありませんでした。


私が入職した会社は大きく、どちらも自分の部署の人ではありませんでしたが、「このような変な人が潜んでいる会社なのか…怖いな」と感じてしまいました。


その肉を叩いていた女性は、他の住居者からも苦情があり、退去となりましたが、カンカンは収まりませんでした。


なんと、カンカンは退去した部屋の隣の部屋の女性が、引き継いでいたのです。

 

「理由は分からないが、肉を仕込みたくなって、ハンマーで夜中に肉を叩くようになった……」とのことです。

 

何かにとりつかれているとしか思えませんでした。

 

 

住民トラブルや怪奇現象というものは、他の問題も引き寄せてしまうのか…カンカン問題が解決しないうちに、さらなる異変が起きました。


しょっちゅう、廊下を裸足ですり足で歩き回るようになった人がおり、「この人も狂ってしまったんだな」と感じました。


また、私の左隣の住人が、四六時中洗濯機を回すようになってしまったのです。

 

常に「ウィーン、ウィーン」と洗濯機の回る音が聞こえていました。


ちょうど私が外出する際に、左隣の住人が換気のためか、玄関のドアを開けていました。恐る恐る中をチラっと除くと、床中一面に洗いたてと思われる湿った衣類が敷き詰められていました。


これを見た瞬間、「家賃がいくら安くても、もう耐えられない、自分の精神もおかしくなりそう!」と思い、引っ越しました。


その後は白い服を買うたびに生えていた黒カビも新居では一切生えなくなり、怪奇現象に見舞われることもなくなりました。


引っ越し後、事故物件かどうかを調べられるサイトがあったため、女子寮のある場所を調べると、「首吊り自殺」とだけ記載がありました。


ああ、その霊がきっと、いろいろ起こしていたのかもしれないなと、妙に納得してしまいました。


しばらくして、私の部署に女子寮へ入居したという職員が入職してきました。


おそるおそる、不思議なことが起きていないか聞いてみると、「枕が、叩かれて……」と。私はその職員が狂わないように、早めの引っ越しを勧めています。


やはり、何事にも「安い」のにはそれなりの理由があるのかもしれません。また世の中、本当に不思議なことってあるのだなと、実感しております。

 

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