私は小学生のとき、今でもはっきりと覚えているとても不思議で、少し気持ち悪くて、それでいてちょっとだけ嬉しいような体験をしました。
もしかしたら信じてもらえないかもしれないけど、これは私と母が本当に体験した“奇妙なできごと”です。
まず、「小さいおじさん」ってご存知ですか?たしか私がその存在を知ったのはテレビだったと思います。深夜番組か何かで、「小さいおじさんが見えるといいことが起こる」という話が紹介されていました。
そのときは、「へえ〜、そんなのいるの?」と半信半疑だったけど、まさか自分がそれを“見る側”になるとは思ってもいませんでした。
その日も、いつものように夜、自分の部屋で漫画を読んでいました。私の部屋は2階にあって、割と広め。ドアを開けてすぐ横にベッドがあって、窓が2つ見える位置にある配置です。
私はベッドに仰向けに寝転がって、天井を見ながら漫画を読んでいました。
特に怖い話を読んでいたわけでもなく、普段どおりの夜だったんです。
しばらく読みふけっていると、突然「カサカサカサカサ…」という小さな音が部屋の中から聞こえてきました。
最初は「うわ、虫だ」と思いました。
私は虫が本当に苦手なので、思わず漫画を置いて、パッと起き上がって部屋の中を見回しました。けれど、見渡してもどこにも虫はいません。壁にも床にも、天井にもいない。
不思議に思いながらも、「気のせいかな」と思って、またベッドに戻って続きを読み始めました。
でも数分後、また同じ「カサカサカサ…」という音が。
今度はもう間違いない、なにかいる!と思って、私はベッドに寝転んだまま周囲をキョロキョロと見渡しました。
視力が悪く、寝る前はメガネを外していたので、部屋の中がぼやけて見えていたのですが…その中に、何かが“動いている”のが見えました。
その瞬間、背筋がゾッとしました。
虫にしては大きすぎる、けど人間にしては小さすぎる。
私は思わず息をのんで、身動きもできなくなりました。ただただ、ポカンと口を開けて、それを目で追いかけていました。
だんだんそれが近づいてきて、私の視界の中心に入ったとき、ピントが合いました。
「……え?」
信じられないものを見た、というより「これはなんだ?」という、脳が理解を拒否するような感覚でした。
そこにいたのは、でっかい(たぶん)ゴキブリに乗った、小さなおじさんだったのです。
身長は30センチくらいで、緑のジャージを着ていて、髪はなんと三つ編み。
どう見ても“おじさん”の顔をしていて、なのに髪型は女の子っぽいし、服はジャージだし、乗ってるのはゴキブリだし…もう、情報量が多すぎて混乱しました。
そのおじさんは、カサカサ音を立てながら、ゴキブリに乗って私の部屋の中を悠々と移動していました。
私は動けず、声も出せず、ただ見ていることしかできませんでした。
「夢だよね?」と思って、自分の手をつねりました。でも、痛い。「夢じゃない」。まばたきしても、おじさんはまだそこにいる。
気のせいでもない。だんだんと怖さより、訳のわからなさと気持ち悪さのほうが勝ってきて、心臓がバクバクしていました。
するとそのおじさんは、スーッと動いて、部屋の壁のほうへ行くと、そのままふっと“壁の中に”消えていったのです。
ドアも窓も使わず、まるで存在そのものが溶け込むように、スッ…と。
私はその夜、一睡もできませんでした。
翌朝、寝不足でフラフラしながら朝食を食べていたら、母が「どうしたの?顔色悪いよ」と聞いてきたので、私は昨日の話を打ち明けました。「変なおじさんが部屋に出た」と。
母は最初、笑いました。「あはは、なにそれ」と。
けど、その後、表情がスッと変わって、驚きの一言を言いました。
「……え、昨日って、何時ごろ?」
「うん、夜の8時くらいかな」
「……あんたが帰ってくる前、リビングで横になってテレビ観てたら、うしろから“カサカサ”って音がしてね、振り返ったらね……いたのよ、小さいおじさん」
え?何言ってるの?と思いました。
母の話によると、リビングでテレビを観ていたら、すぐ後ろの廊下あたりからカサカサ音がして、振り返ったら「緑色のジャージ着て三つ編みした30cmくらいのおっさんが、テレビを覗き込むように立ってた」そうなんです。
母が「うわっ!」と声を出した瞬間、おじさんはビクッとして、バタバタと走って玄関の方へ行き、ドアの隙間からスッと外に出て消えたとのこと。
2人とも同じようなものを、同じ日に、別の場所で見ていたのです。しかも、姿形まで一致している。もうこれは偶然じゃないと思いました。
「でも、怖くはなかったよね」と母は言いました。
たしかにそう。怖いというより“気味が悪い”けど、どこか憎めないというか、不思議な存在というか…。
そして驚くべきことが数日後に起こりました。
母は毎月、趣味で宝くじを10枚ずつ買っていたのですが、その月になんと30万円が当たったんです。いつもはかすりもしないのに、「え!?」と家族で大騒ぎ。
そして私にも不思議なことが。
小さいおじさんを見た翌日、学校で5教科の大きなテストがありました。寝不足で最悪の状態だったにもかかわらず、なぜか問題がスラスラ解けて、自己採点してみたらなんと全教科満点だったんです。
もちろん、そんなことは初めてでした。
あの小さいおじさんが、幸運を運んできてくれたのかもしれません。気持ち悪い見た目だけど、もしかしたら“良いモノ”だったのかなと、今では思っています。
それ以来、もう一度も会っていません。
夢だったんじゃないかと思うこともあるけど、母も見たこと、そして不思議な幸運が続いたこと…それを思うと、やっぱりあれは「いた」と思うのです。
次に出会えたら、怖がらずに、もっとしっかり観察して、ちゃんと「ようこそ」って言ってみたい。
あの時は心の準備ができてなかったから。もしまた会えたら、ちゃんと歓迎してあげたいなって、思ってます。
著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)

