怪文庫

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僕を変えてくれた霊の話

今日は、僕の人生を変えた不思議な出来事について話したいと思います。

 

10年前、私は平凡な大学生でした。


将来の夢もなく、大学も英語が一番得意だったから英文科を選んだだけで、燃えるように好きなものがありませんでした。

 

さらに、高校時代に両想いになった彼女とは大学入学と同時に自然消滅してしまい、心の拠り所がない生活を送っていました。

 

勉強にも夢中になれず、恋愛もうまく行かず、大学では、言葉の訛りを気にしてあまり話さなかったせいか友人もできませんでした。

 

親が工面してくれる仕送りだけでは、生活費が足りなかったため、居酒屋でアルバイトをしていました。

 

アルバイトが終わると、帰宅は夜の1時過ぎになります。

 

食事はまかないですませているので、そのまま風呂にも入らずに寝てしまう生活でした。

 

風呂に入らないのは、疲れているからだけでなく、下の部屋に住む人がうるさくないように配慮をしていたからです。

 

それなのに、ある日、アパートの管理会社から「夜中にうるさくしないでほしい」という電話があったのです。

 

聞けば、階下に住む人から、僕の部屋の音がうるさすぎるというクレームがあったのだそうです。

 

「気をつけて生活をしているし、鍵を開ける音やドアを開ける音は出さないわけに行かないし、どうしたらいいかわからない」

 

とマンション管理の人に言うと、騒音はそんなレベルのものではないと言うのです。

 

階下の人の話では「夜中の2時半ごろから、30分以上、足音が聞こえる」ということなのです。

 

私は信じられない思いでしたが、よく挨拶をしている階下の人は、感じのよいサラリーマン風の人で嘘をつくようにも見えません。

 

「気をつけます」と返事をして、対策を練ることにしました。

 

自分が足音を出しているということは考えられませんでしたが、イビキをかいていることは充分考えられました。

 

実家で、家族からうるさがられることがあったからです。

 

階下の人は、イビキのせいで起きてしまって、何かの勘違いで「足音」と言っているのかもしれません。

 

入学祝いにもらったデジカメがあったので、ギガ数の多いSDカードを購入して、自分の寝ているところを撮影することにしました。

 

 

映像は撮れなくてもかまわないので、ベッドサイドのテーブルに置いて録画ボタンを押して練ることにしたのです。

 

そして翌朝、イビキがあるならどの程度か、寝相が悪いせいで壁などを蹴っていないかなどを確認しようという気持ちで見てみました。

 

4時間分も撮れていたので、映像を流しながら普通にテレビを見たり、掃除をしたりしていました。

 

すると、1時間ほどたった頃、デジカメからカタカタという音が聞こえてきました。

 

急いで、画面を見てみると、そこには驚くべき姿が写っていました。

 

僕自身が、見たこともないステップで、プロダンサーのように軽やかに踊っている姿でした。

 

定点カメラにしたので、胸から下しか映っていませんでしたが、紛れもなく僕自身の体でした。

 

大学には友人がいなかったため、地元が同じ友人を呼んで、映像を見てもらいました。

 

この友人は都市伝説にハマっていて、この映像に興味を示してくれました。

 

友人の推察では「霊に取り憑かれたのではないか」ということでした。

 

アパートなどでは、かつて住んでいた人の霊が成仏していない場合に、新しい住民に憑依することがあるのだそうです。

 

そこで、そこで日を改めて隣の一軒家に住んでいるアパートの大家のおじいさんに確認することにしました。

 

大家さんとは、挨拶をする間柄になっていて、管理会社の人よりも話しやすかったからです。

 

大家さんの話を聞くと、こんな事実がわかりました。2年ほど前に、ダンサーを目指す学生がこの部屋を借りていましたが、交通事故で重傷を負い、意識不明になった後に亡くなってしまったのだそうです。

 

さっそく友人にこのことを報告すると、きっとその学生さんはまだ成仏していなくて「踊りたい」という強い気持ちがあり、生きている人間の体を借りて踊っているのではないか、と言うことでした。

 

友人は怖がり、除霊をした方がいいとすすめてくれました。しかし、自分は、全く別のことを思っていました。

 

「自分が起きている間に思いっきり躍っておけば、夜に取り憑かれて踊ることが減るのではないか?」と考えたのです。

 

試しに、友人と外に出て、軽くステップを踏んでみると、まるで自分ではないように自然と踊ることができました。

 

踊ることで、心が軽くなる不思議な感覚がありました。

 

自分には何もないと思っていた僕にとって、このダンススキルは失いたくないものでした。

 

友人は心配してくれましたが、ダンススキルを失いたくなくて、僕は除霊はせずに大学のダンスサークルに入ることにしました。

 

そこでは、初心者とは思えないと驚かれ、短い時間でダンス技術を習得できました。

 

そして、夜中に僕が起きて踊る現象もなくなったのです。

 

クレームもなくなり、このまま同じ部屋に住めることにホッとしました。

 

その後も、ダンスに励み、今は子どもにダンスを教える仕事をしています。

 

これが正しいことかわかりませんが、僕は交通事故で亡くなった学生さんのダンススキルをもらったようなものです。

 

自分が特別好きではないヒップホップ系のダンスが1番得意なのは、亡くなってしまった学生さんの好みかもしれません。

 

今でも踊るときには、ダンススキルを授けてくれた会ったことのないその人への感謝の気持ちをこめて踊っています。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter